あー、帰りたい…
なんで行き着く先がよりによって北の森なのよ…
ていうか怪しくない?
アイドルがわざわざこんなところに脱走しに来るかしら?
…それはそうと、なんか私…忘れてるような…
それを思い出せばこの寒さを何とかできるって私の勘が言ってるけど…
寒さのせいでそこまで頭が回らないわよっ!!
月と太陽の物語
私たちは北の森を進んでいた。
不幸中の幸いか、雪は降っていないので視界は良好だ。
…凍え死ぬほど寒いのは変わらないケド
「お…おかしいわよ…!こ…こんなところに…あんな温室育ちのアイドル娘が来る…なんて…!!」
「確かになぁ…もしかしてアリスはホントに誘拐されて、俺たちはまんまと敵のワナにハマってたり…!?
なんてなぁ!!あははは、そんなワケないよなぁ!!」
「そんな典型的なパターンあるワケないで…しょ……?」
と、私が言い切ろうとした時、何か違和感のようなものを感じた…
ふと空を見上げてみると、バタフリーやらモルフォンやらの原型ポケモン達が空を舞っていた。
「あー!見て見てぇ!チョウチョだよぉ!!綺麗だねぇ!」
「ホントだ!いやぁ…なんか和むなぁ…」
サニーとバカ恐竜は浮かれてるけど…おかしいでしょ!?普通に考えて!!
こんな日の光もない雪だらけの森で虫タイプのポケモンがあんなに飛んでるわけないじゃない!!
「ちょっと…本当におかしいわ…!こんなところに虫タイプがいるなんて…!」
「…………」
ルナはこの違和感に何かを感じたのか、サニーを庇うように前に立った
「兄さん…危ないですから俺の傍にいてください」
「どうしたの?ルナちゃん…?」
ルナは暗くて先が見えない草むらに手を突き出し、技を繰り出した
「『悪の波動』」
その波動は凄まじい威力で、こっちまでビリビリしてくるほど…!
もしかして遠距離戦タイプなのかしら…?
ドンッ!!! バキッ!!
そんなことを思っている間に、波動に飛ばされ木に当たった音があちこちで響いた。
どうやら複数人いるらしい…!
「ぐっ!!」
「クソッ!厄介なヤロウだぞ…!」
「しょうがねぇ…こうなったら肉弾戦だ!!」
そんな声が聞こえたと思ったら、私たちの周りから続々と人型の奴らが出てきた。
そいつらの顔はマスクのようなもので鼻のところまで覆われている。
とりあえず、こいつらがどう見ても仲間じゃないってことは確かね…
「おおっ!敵かっ!?敵なのかっ!?戦えるのかっ!?」
「何喜んでるのよ!この馬鹿!!こんな出来たばかりの戦力もポジションも決まってない小隊が
この数とどうやって戦うのよ!っていうか何なワケ!?なんで私たちが狙われてるのよ!?」
もう益々この依頼自体が敵の罠だったとしか思えないわ!!
アリスも本当は逃走じゃなくてこいつらに誘拐されてるに違いない…!
司令官に連絡するも、この敵に囲まれた状況で呑気にケータイなんか出せないし…
考えるのよ私っ…!もと頭脳派Q隊所属…戦略家として名をとどろかせたこのリリィ様が
こんな状況…こんな状況…こんな状況ぉぉおおお!!!!
「っだぁぁあああ!!!寒くて頭が回んねぇえええ!!!!」
「もぉいいじゃん!戦ってやっつけた方が楽だし早いしカッコイイじゃん!!」
「黙ってろっ!!そんな危険なことできるかっ!!!」
「は…はい…!す、すみません…?」
これだから寒さは嫌なのよ!
草タイプの私にとっちゃあこの寒さがどれだけキツイものかっ…!
あーダメ!!全然頭が回らない…!!この寒さを何とかできる方法も私にはあるはずなんだけど
それすらも思い出せないなんて…!
でもこのまま実戦データもないS隊で戦いに挑むのは無謀だわ…
バカ恐竜の戦力は、私がQ隊に入る前のF隊で同じ隊員だったから一応把握はしてる…
問題はルナとサニーよ!
この二人はまだ仮入隊状態の新米で、実戦データも全然無い。
ルナは今の技を見る限りでは十分戦力になる…だけど接近戦型なのか遠距離戦型なのかもわかってない…
ニューラという種族は素早さと攻撃力が高いからバリバリの接近戦型なのだが…
個人によって戦い方のスタイルは変わるから種族だけでポジションは決められないし…
サニーに関しては戦えるのかどうかすらもわからない…!その戦力も未知数…
それに私たちの隊にはきちんとした『回復型』のポジションがいない。これが重要なこと…!
私は一応アロマセラピーという技で状態異常の回復ならできるけど、体力回復系の技は
自分自身しか効果のない光合成しか使えない…それにこの天候で光合成は無駄なこと…
そうなると無理に突撃して全滅…という危険性もあるわ…
回復型のいない小隊が実戦で戦うということはすごく危険かつ無謀であって…
だからまだ回復型のいない私たちS隊は戦うことのない『捜索依頼』を任された…はずなのに!!!
落ち着くのよ私…!
寒さと焦りで冷静な判断ができなくなってきたわ…!
どうすればいい…でも、この状況で考えられることはどう足掻いても二つしかでてこない…
まだ未知数のデータに賭けて戦うか
それとも、何もせずに全滅か
いや…まだきっと何か手があるはず…!でも時間がない…!!
戦うことを選択するにしても回復型がいないから慎重に作戦とポジションを決めて、私が指示しなくちゃ…
勝手に動かれたらそれこそ隊の全滅は間逃れないわ…!!
「……作戦など考えても無駄だ、もう動くしかない…」
ルナはそう言うと勝手に戦闘を始めてしまった…!
一番慎重に動かさなければならない奴なのに…!!
「ちょっ…何勝手に動いてるのよっ!!」
「……俺に指図するな」
ルナは手に鋭いカギ爪を装着して、何の考えもなしに敵の軍勢に突っ込み敵をなぎ倒す。
やっぱり接近戦型だったのね…戦力もやっぱりある、多分この隊で一番の攻撃力ね…
だけど作戦もなしに一人で敵の軍勢突っ込むのは自滅しに行ってるようなものよ!
私の戦略ではこのルナをうまく使って戦闘を進めるはずだったのに…!!
ルナの戦闘能力をうまく使えればこの状況を乗り切る微かな希望があった…
でもアイツは下手をするとS隊全滅に導きかねない、危険なキーマンだった…
そして今、まさにその最悪な方に傾いてしまったのである
「止まりなさい!ルナっ!!…サニー!アンタの言うことなら聞くんでしょ!?
だったらルナに今すぐ戦いを止めるように言って!!」
「ごめん…今のルナちゃんは何を言っても聞こえない状態なんだ…ボクの声も届かないよ…」
「李苡!もう無理だぞ!!このままじゃ俺たちまで全滅だ!!」
「くっ…あのバカ…!!しょうがないから私たちも戦闘に入るわよ!サニー、アンタは何ができるの!?」
「ボ…ボクは…えっと…ルナちゃんみたいな攻撃はできないけど、氷系の技ができるよ…!」
「氷…わかったわ!じゃあアンタは私と遠距離戦闘でいくわよ!ウィルはルナの後ろ左右の敵を!!
あと森に炎が燃え移ったら大変だから火炎放射とかの広範囲炎技は避けて!!」
「オッケー!!」
こうなったらこの状況で生き延びるしかないわ…!
大丈夫、戦渦で産まれ育った私なら…子供の頃に比べてこのくらいなんでもない…!!
私はこんなところで死ぬわけにはいかない…!
生きなくちゃ…私のために犠牲になった沢山の人のためにも…