S隊初めての戦いが始まった
未知の戦闘能力に賭け
たった四人でこの数え切れない敵に立ち向かっていく
月と太陽の物語
「ブレイククロー…!!」
「ウギャアァァァアアッ!!!!」
ルナは周りなど何も見えていないような恐ろしいほどの戦いにのめり込む瞳で敵を切り裂いていく。
まさにその姿は鬼神のようである。
返り血を浴びても何の表情の変化も無い、冷たい絶対零度の心のせいか…
「炎のパーンチ!!」
「グハッ!!!」
一方、ウィルの方は同じ接近戦型でもだいぶ戦闘スタイルが違うようだ。
戦い自体を楽しんでいるというか、この危険な状況すらも楽しんでいるような感じだ。
それに攻撃も相手が気絶する程度のもので、ルナのように血が出るほどは攻撃しない。
「よぉルナ!お前強いな!!」
「…………」
戦いながら話しかけるが、ウィルの声など今のルナにはまったく聞こえていない。
「でも少しやりすぎじゃねぇか?こいつらだって生きてるんだぞ、血が出たら痛いだろ?」
「…………」
「あとさ、あんまり自分勝手に動くのもよくないと思うぞー?俺らはみんなで動いてるんだ、だから
誰か一人でも自分勝手なことしたら傷つくのはみんななんだ、わかるか?」
「………話しかけるな…殺すぞ」
ルナはその戦いだけを見つめる血のような冷たい瞳でウィルを睨んだ。
その表情は怒りとも憎しみとも言えないような、切り裂いた敵の血がついた冷たい氷の仮面のようだった。
「あはは、超怖ぇなその顔」
しかしウィルは全然動じない、むしろ明るい笑顔で返した。
あのルナの目で睨まれた普通の人だったら魂が抜けて気絶するだろう…
「お前さ、戦うことになんか抵抗あるんだろ?だからそんな目してるんだな?」
「…………」
「なんか使命感っていうか、そんなので戦ってる感じ。でも、それってつまらないし
自分も悲しいし、相手も可哀相じゃないか?」
「…………殺すと言っているだろう…!」
「大丈夫!お前は俺を殺せない、だって俺たち仲間じゃん!!」
「……何が仲間だ…お前は本当に馬鹿だな…」
「おう!俺はバカだからな!難しいことはわからない!!でも直感とかすごいんだぜ!
んで、その素晴らしい直感でわかる!お前はそんなことしない、本当はいい奴なんだってな!」
そして歯を見せてニカッっと眩しいくらいの明るい笑顔で笑いかける。
それは純粋で、疑うことを知らない無垢な子供のような魅力的なものである。
ルナは、自分にはないものを見せつけられたような感覚になり目をそむけた。
欲しくても、もうこの凍てた心を持ってしまった以上…絶対に手に入らないと諦めていた温かさ…
「フンッ…!」
ルナは迫り来る敵に攻撃をするも、先程のように血が出るまでの攻撃方法はしなかった。
「そっ!敵でも味方でも、みんな大切な命だ!血を流すのは悲しいことだからな!!」
「ルナちゃんが…酷い戦い方をしなくなった…!」
その状況を遠くから見ていたサニーは本当に驚いていた。
自分の声すらも届かなくなったルナに、あんな説得を聞かせるなんて…
「あのバカはね、ホントにバカなんだけどそのバカさが人の心を助ける時もあるのよ。
たまに羨ましく思うわ。あれだけ何も考えずに明るく、人を疑うこともしない生き方って幸せよね」
実は李苡もその救われた一人であった。
Q隊に所属する前、李苡はF隊にいてウィルと同じ隊員だったことがある。
李苡は別の国で生まれ育ったのだが、李苡が生まれたとき、その国は大きな戦争の真っ只中であった。
戦争の中で産まれて育った彼女は、すぐに肉親を失い、生きるために大変な苦労をしたようだ。
そのせいで人を信じるなんてことはできなくなっていて、入隊当初は誰も信用せず孤立していた。
そんな中、極力人との関わりを持ちたくなかった李苡にしつこく付きまとってきたのがウィルであった。
最初はうるさい、邪魔、しつこい、というものしか感じず、無視し続けた。
ただあまりにも明るくて、子供のような笑い方をするウィルを見ていると、人を信じることができない
自分が酷く哀れで、こんな生き方しかできない自分が嫌いで、自分がとても馬鹿らしいと思うようになった。
その時にウィルとした会話はまだ覚えている。
『アンタ…本当に馬鹿みたい…、どうしてそんなにすぐ人を信用できるワケ?裏切りとか怖くないの…?』
『俺はバカだから、戦略とかは考えられない!だけど人を信じることはできるから、俺は人を信じるんだ!
だって、人を疑いながら生きるのって悲しいことだろ?疑われる人も、疑う自分も…。
裏切られるのは怖いことだ!だけど、人を信じられなくなるのはもっと怖いことだからな!!』
そう言って笑うあの顔が、救いになった。
『裏切られるのは怖いこと。だけど、人を信じられなくなるのはもっと怖いこと』
自分が長い間苦しみながら探した、自分を変えるための言葉はそれだった。
それからというもの、李苡は人が変わったように喋るようになったし、
人を信じることができるようにもなった。
深い闇はまだ消えないけど、十分というほどの光を手に入れることができた。
「ルナも…あのバカと係わればきっと変われるはずよ」
「そうだね…!また昔みたいに笑ってくれたらいいな!!」
サニーは、自分のせいであんなになってしまったルナを助けられる希望を見つけて心底喜んだ。
「さぁて、私たちも戦うわよ!!」
「うん!!」
ルナとウィルは強くて敵わないと考えた奴らが集まってきた。
そんな敵が李苡やサニーの周りを囲む。
「女だと思って甘く見てちゃあアンタら痛い目見るわよ?覚悟しなさいね?」
「た…戦うのは苦手だけど…頑張るぞ…!!」
李苡は何やら道具箱を取り出した。
中には沢山の種類のきのみが入っている。
「軍勢にはこれが一番よね!」
「きのみ…?リリィちゃん、それどうするの?」
「敵さん達にあげるのよ」
「!?」
「ただし…爆弾にしてね!」
李苡はクラボの実とモモンの実とウイの実を敵に向かって投げた。
「『自然の恵』!!」
そう李苡が唱えると、投げたきのみは炎、電気、岩になって相手の頭上から降り注いだ。
「うわぁ!すっごーい!!」
「私にかかればきのみだって立派な武器なのよ!」
「クソッ!!この女っ!!」
「リリィちゃん危ない!『氷の礫』!!」
「グハァア!?」
サニーは空気中の水素を凍らせ、空中にいくつかの氷の塊を作って攻撃した。
その攻撃を喰らった敵が勢いよく吹っ飛ぶのを見て、李苡は驚いた。
「…アンタ、攻撃力…実は結構あるでしょう…?」
「えっと…ルナちゃんより少しあるくらいかな?」
「ゲッ!!あのルナより強いのっ!?」
「で…でもボク…ちょっと理由があって…あんまり力が出せないから…戦いも長くはできないし…」
「?」
目を伏せるサニーを見て、李苡は何かあるのだろうと察したが
今はそんなことを気にしていられる状況ではなかった。
「まだまだ敵はいるわよ!!」
「うん!がんば…ろう……あれ…なんだか…眠く…」
「えっ!?ちょっ…サニー……?…なっ…!?わ…私…まで……なんか…眠…く…!?」
李苡はハッとして空を見上げた。
先程から戦闘に係わることなく、ずっと空を舞っていたバタフリーやモルフォンの意味をようやく理解した。
「眠り…粉……!!!」
李苡はこの戦いが無意味だったことも今はっきりとわかってしまった。
「これは…この戦い自体がダミー…つまり…私たちの気を引くための……おとりだったのね…!!
私たちが…戦闘に集中している間に…目に見えないくらい少量の眠り粉を…空から…長時間……!」
そして、敵がしている顔の半分を覆うマスクは正体を隠すためのものではなく
この粉を吸わないためのものだったということも…
「バカ恐竜…!これは…眠り……!!」
と、忠告しようとウィル達の方を見たがウィルはもうすでに一番乗りで熟睡していた…
「あっさり寝てんじゃねぇぇええ…え……!!!」
李苡はその一言を叫んで意識が途切れた。
「兄…さん……!!」
ルナは襲い来る睡魔と戦いながらもサニーのもとへ行こうとしたが、意識が遠のいて、身体は重くなっていき
自分の意思とは無関係に、徐々に闇の中へと堕ちていった…