暗闇から泡のように浮上する意識

 

段々と光に近づき

 

視界が開けてくる

 

 

するとそこは先程の森ではなく

 

暗く冷たい部屋だった

 

 

 

 

 

太陽の物語

 

 

 

 

 

 「う…ん………」

 

 李苡はゆっくりと目を開けた。

 すると手には技を使えなくする特殊な手枷がついていた…それに周りの景色も見たことがない場所で…

 

 

 「ここは…!?手枷まで…!それにこの手枷…技を封じる特殊なもの…!

……いつまで寝てるのよっ!バカ恐竜!!」

 

 「ん…あ…ああ、オハヨー…」

 

 「おはようじゃないわよ!呑気に寝ぼけてる場合じゃないわっ!!」

 

 「お…おおっ!?手枷!?何だ!?何が起こったんだ!?てかここはどこだ!?」

 

 「ここは多分さっきの奴らのアジトよ…これでハッキリしたわ、アリスはアイツらに誘拐されたのよ。

  おそらく、このアジト内のどこかにいるわ…」

 

 「おいおい…こりゃあランクAもんだぜ…」

 

 

 あの能天気なウィルでさえ、今回はちょっとヤバそうという雰囲気だ…。

 

 

 「…くっ……」

 

 「…やっとお目覚めね、トラブルメーカーさん」

 

 「…兄さん…!兄さんはっ!?」

 

 「そういえば…サニーがいない…!?」

 

 「クレドの奴らか…っ!!クソッ!俺は…また兄さんを守れないのか…っ!!」

 

 「クレド…って…クレド軍のこと!?サニーとクレド軍は何か関係してるの!?」

 

 

 

 「うるさい!!お前らには関係ないだろ!!!」

 

 

 

 ルナは兄を守れなかった自分を責める気持ちと、兄がどこにいるのかわからないという状況のパニックで

 苛立つ感情を李苡に怒鳴りつけてしまった。

 

 

 

 「……はぁ?何ソレ?『お前らには関係ない』?」

 

 

 

 今までウィルでさえ見たこともないような冷たい怒りで満ちている瞳と声色で李苡は言った。

 

 

 

 「ふざけるのも大概にしろっっ!!!」

 

 

 そして思い切りルナの顔に底の高く赤いハイヒールで回し蹴りを撃ち込んだ。

 

手枷のせいで咄嗟のガードができなかったルナの頬に李苡の怒りの蹴り技は炸裂、

 ルナはすごい勢いで壁まで飛ばされた。

 

 

 「…ッ!!」

 

 ルナの口からは一筋の血が流れる…

 

 

 「り…李苡…少しやりすぎじゃないか…?」

 

 「アンタは黙ってなさいっ…!!!」

 

 「は…はい……」

 

 あまりにも過激な仲間割れをウィルは止めようとしたが、今の状態の李苡には何を言っても通じないし、

逆らったら間違いなく命はないだろうと確信しオズオズと下がっていった。

 

 

 「おい、そこの人の話も聞けないガキ…何が『関係ない』だ?テメェと関係なかったら

  私はこんなところにはいねぇんだよ…少なくとも関係なくはねぇよな?あ?」

 

 「……!?」

 

 

 ルナでさえも李苡の豹変振りに唖然としてしまっている。

 

 

 「いいか?テメェはガキだ、自分勝手な…。人がどうすればこの状況を回避できるか考えてる最中に

  勝手に動き出しやがって…そんでこの状況になったら『関係ない』か?責任放棄か?

  テメェはあれか?自分が逃げたい状況になると『関係ない』とか『うるさい』とか『殺す』とかの

  言葉で逃げようとすんのか?ふざけんなカスが…!!」

 

 

 ツカツカと冷たいハイヒールの音と共に、座り込んだままのルナのもとへ近づく。

 そして先程より落ち着いた冷たい口調に変わった。

 

 

 

 「アンタみたいな我侭なガキのせいで私やバカ恐竜まで死ぬのはごめんよ、死に急ぐなら一人でいけば?」

 

 

 「………っ」

 

 「甘ったれんな。私から見たらアンタなんてただの甘ったれてるガキなのよ」

 

 「…!!」

 

 

 

 

 「アンタ、『自分は世界で一番不幸で可哀相な存在だ』とか思ってるでしょ?」

 

 

 

 

 「そんなことは…っ!!」

 

 「いや、思ってる。心の隅でも、ほんの少しでもそういう意識はある。

  そうでなきゃ、こんな人を巻き添えにしてまで死に急ぐ悲劇のヒロインなんて演じないわ」

 

 

 口調こそは淡々としているが目は冷たく、鋭い…

 まるで鋭い剣のようにルナを串刺しにして動かせない。

 

 

 「お前に…お前に兄さんと俺の何がわかる…っ!!」

 

 「わからないわよ、何も」

 

 「…っ!」

 

 「当たり前よ、だって聞かない話を知るわけないでしょ?アンタ、何も話してくれないじゃない」

 

 「…お前らに話す必要はない……」

 

 「また出たわよ『関係ない』発言。やっぱりアンタは自分だけが暗い過去背負ってるとか思ってる。

  話したがらないのは『お前らみたいな幸せに囲まれて育った奴らになんか聞かれたくない』って理由でしょ?」

 

 「……………」

 

 「図星のようね。でもそれって『自分以外は皆幸せな世界で育ってきた』っていうことと同じじゃない。

  それはつまり『自分は世界で一番不幸で可哀相な存在』って考えがアンタの中にあるからよ」

 

 

 

 李苡は淡々と語り始めた。

 

 

 

 「私はここじゃない国で産まれた。その国は戦争の真っ只中で、酷く荒れていたわ。

  私がこの世に生まれてきて初めて見たものは人が憎しみ、殺しあっている姿。そんな世界で私は育った」

 

 

 

 「!!」

 

 

 「両親は私の目の前で撃たれて死んだわ。姉が三人、兄が一人いたけど皆殺された。

  なんとか逃げ延びた私は、人を裏切って裏切られて…醜く生きることに執着したわ」

 

 

 ルナは、李苡の性格からは想像もつかない過去を聞かされて目を見開いた。

 

 

 

 「そんな世界で育った私は人を信じたことなど一度もなかった。何もかもが全部嘘にしか見えなかった。

  それでも私は生きたわ。死ぬことなんて許されないの。この身体には何人もの『命』があるから…

  私の父親や母親、姉さんに兄さん…そして私のために犠牲になった人々…全部、私の『命』だから」

 

 

 

 「…………」

 

 「それにこのバカ恐竜だってね、見た目からじゃ想像できない過去があるのよ」

 

 「い、いや…別に俺は大した過去は…」

 

 

 「翼を出しなさい!」

 

 

 「えっ…、でもルナは初めてだから…驚くんじゃあ……」

 

 「いいからっ!!」

 

 「は、はいっ!!」

 

 

 そう言うとウィルの背中から、原型リザードンの翼が飛び出した。

 

 

 「っ!?」

 

 

 ルナはその翼を見て驚いた。

 

 普通、人型の種族に生まれた者は、身体自体は人間の構造と同じなので、原型の形が残ることはない。

 例外として、体の模様などは原型のものが残ることはあるが…

 しかし翼や耳といった特殊なものは人型が原型のものを持つことはないはずだ。

 

 

 

 「あはは…やっぱ驚いた?」

 

 「翼…!?」

 

 「俺、なんか人と違うんだよね、口から火とか吹けるし」

 

 

 

 口から火を吹くという原型のようなことができる人型というのも存在しない。

 火や氷、電気などの攻撃をする場合、人型は技の名前を唱えることによって技が発動し、使うことができる。

 そしてその技というのも、手の付近から発動するものがほとんどである。

 

 

 

 「コイツは『原型に近い人型』、つまり『異型』なのよ。自然の摂理じゃ絶対にありえない存在…

  しかも記憶喪失で詳しいことなんかは全然わかってないの」

 

 

 「記憶…喪失……」

 

 

 

 「そう、七歳頃から前の記憶が全部ないんだ。気づいたらいつの間にか孤児院に引き取られてたって感じ?

  院長から聞いた話だと、俺は雨の中で倒れてるところを保護されたらしい。しかも酷い怪我までしてて

  ほぼ瀕死状態だったみたいだぞ?院長が拾ってくれなかったら今頃俺はいないわなぁ!」

 

 

 

 明るく壮絶なことをペラペラと喋るウィル。

 

 

 「だからさ、親とかのこともまったくわからないし覚えてないんだ!

  自分がなんで普通の人型よりも原型に近い体なのかとかも全然わからん!」

 

 

 自分の親や生まれたところなどの記憶がないうえに、身体の構造が人と違って特殊であるのにも関わらず

 ウィルは特にたいしたことだと思っていないようだ。

 いつもどおり明るく笑って、すごく軽快に自分の過去を語った。

 

 

 「わかった?皆が皆、幸せな過去を持っているとは限らないのよ。

  それぞれの過去があって、それと向かって戦ってる…私も、コイツも」

 

 「…………」

 

 「俺の名前な、孤児院の院長がつけてくれたんだけど『ウィル』ってのは英語で未来のことを

言う時に使うんだって!『過去はなくても未来ならいくらでも作ることができる、だから生きて、

広がる未来を走り抜けて』って院長に言われてから、初めて光が見えたような気がしたんだ。

『過去』がどんなにつらくても『未来』は待ってる。だから俺は『過去』をつらいとは思わない」

 

 

 「…未来……?」

 

 

「そ!ルナにどんな『過去』があってもルナの『未来』は待ってるんだ、

だから『過去』に縛られちゃいけないぞ!

『過去』に縛られたままだと、いつまでも『未来』には行けないからな!」

 

 

 

 ウィルは眩しい笑顔で笑っているが、李苡の目線はまだ冷たいままである。

 

 

 

 「アンタが自分勝手な行動をすると、私やコイツまでどうなるかわからないのよ?

  私の中にあるいくつもの『命』も、コイツの『未来』も、全部なくなる可能性だってある。

  同じ隊になった以上、これから先私達は『運命共同体』よ」

 

 

 

 

 そう言うと李苡の目は柔らかい光のような優しい瞳に変わった。

 

 

 

 

 

 

 「だから…『関係ない』とか、もう言わないで…?」

 

 

 

 

 

 

 その目を見てルナは、失いかけていた感情や心を少しずつ思い出していった。

 

 

 温かく、優しく、自分の全てを包み込んでくれるその瞳は、もういない母の姿と重なった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…すまん、…自分勝手に行動をしてしまい…皆を巻き込んでしまった……。

  それに…うまく伝えられないが……色々なことを言って傷つけてしまい…本当にすまない…」

 

 

 

 

 

 

 ルナは素直に今まで自分のしてきたことを謝った。

 

 

 「俺、今まで長い間…人と関わりを絶っていて…他人とどう接していいのかわからなくて…

言葉が見つからなくて……人のことも…考えられなくなっていたようだ……

これから…もっと人と…関わって色々覚えるから…他人のことも考えられるように…

人を傷つけないように…頑張る…から……!」

 

 

 

 

 十年間という長い間、他人と関わることのなかったルナが言葉をみつけて必死に自分の思いを伝えた。

 

 

 

本当は自分でも人を傷つけたいわけじゃなく、もっと近づきたかっただけなのに、

人を傷つけることしか学ばなかった十年間が、どうしても人を傷つける言葉しか言えなくしていた。

 

 

 笑い方も忘れてしまったが、いつかちゃんと笑えるようになりたい

 

 

 

 

 

 

 「そうやって喋ると意外に女らしくて可愛いじゃない」

 

 

 

 

 

 李苡もやっと笑顔になった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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