さぁ 踊りましょう
足が壊れるまで
そして歌いましょう
喉が潰れるまで
世界が眠るための こもりうた
月と太陽の物語
ノヴァに過去を見せられた時にも一度味わった、頭が痛くなるほどのノイズが徐々に消えていく。
俺はまだ少しガンガンする頭を軽く叩きながらゆっくりと目を開けた。
「今度はどこだってんだよ…」
予想通り、そこはさっきまでの廃墟とは違う場所だった。
なんとも言い難い不思議な空間。
全体的に夜のような暗さで、重力とか無視して色んなものが宙に浮いている。
壊れたガラスの靴 破かれた絵本のページ 割られた地球儀
そして鳴り続けるオルゴール
「いててて…あっ!師匠!!大丈夫ですか!?」
「夢幻!あれ…他の奴らは…?」
俺と夢幻はキョロキョロと辺りを見回すが、人がいる気配は全くしない…
「アナタ達以外は、誰もいない…」
不気味な空間のどこからか、静かで綺麗な女の子の声がした。
上を見上げると、おもちゃ箱のような大きな箱に座ってこっちを見てる少女が一人…
「確かお前は十字軍の…えーと…メルトだっけか?」
初めて十字軍と会った時にノヴァが言っていた少女の名前。
一言も喋らず、ただ遠くを見つめてるような瞳で本当に人形なんじゃないかと
思ってしまうほどの整った容姿…それと同時に儚くてすぐに壊れてしまいそうな雰囲気の持ち主…
「名前なんて物体を示すだけに存在するもの…ワタシはそんなものに興味はないの…」
「そんなことねぇぞ!名前はすっごく大切なもんだ!!俺もこの名前のおかげでなぁ…」
「黙ってちょうだい。ワタシ、うるさい人は嫌いなの」
俺がこれから名前の大切さを喋ろうとした瞬間に容赦なくキツイ一言。
…いきなりの精神的な先制攻撃に大ダメージだぜ……
「あの…他の皆さんは今どこに…!?」
「そーだ!!どこにやっちまったんだよ!?
もしかしてノヴァの奴、テレポートに失敗したんじゃねぇの!?」
「ノヴァがそんな失敗するわけない…アナタみたいなバカと一緒にしないで」
バ…っ!!?こ…こいつ、見た目によらず結構言うな…!!
「ここはノヴァが創った1つの空間…本物の世界とは隔離された場所…
空間はここだけじゃない。あと2つ、ノヴァとリクヤの空間があるわ…」
「ということは、皆さんバラバラに各空間に飛ばされたのですか…!?」
メルトは微かに頷いた。
ちょっと待てよこれはヤバイんじゃないか…!?
相手は十字軍っていうだけでヤバイのに皆バラバラになっちまって…
しかも回復役の夢幻がここにいるってことは他の奴らは回復なしで戦うことに…!
李苡は自分自身で回復できる技があるからまだしも…ルナとサニーはそれもできない…っ!!
「夢幻!テレポートでここから出られないのか!?」
「それが…ここは完全に通常の空間から隔離された異次元空間で…
同じ空間から空間にしか転移できないテレポートでは脱出不可能です…」
「クソ…!なんとかして皆合流しねぇとマズイぞ…っ!!」
「無理よ…この空間から出るにはワタシを倒すか、空間を創り出した術者…
つまりノヴァを倒すことができなければ…」
畜生…ノヴァの奴…っ!!皆で逃げることができないようにわざわざこんな
厄介な異次元空間まで創りやがって…!!
「師匠…どうやら戦うしかないみたいです…!」
「ああ、そのようだな…っ!!」
「ワタシと踊るのね、いいわ。壊れるまで踊りましょう」
女の子相手に大の男二人で攻撃するってのはなんかやりづらいが仕方ねぇ!!
それにああ見えても相手は十字軍…油断したら確実にやられる…っ!!
「いくぜぇ!!“火炎放射”!!!」
「“サイコキネシス”!!!」
俺と夢幻はいきなり大技を発動させて勝負に出た!
生物兵器としての能力、口から吹く炎と夢幻の強い念力が確実にメルトを捉える…!!
ゴオオォォォォオ…オオォン…!!
激しい爆発と大きな音、煙に隠れて見えないが当たってれば相当なダメージのはず!
「遊んでいるの…?」
煙が晴れる前に小さな声が聞こえてきた。
爆発による煙がなくなり姿が見えたと思ったら、少女の体には傷一つ付いていないどころか
座った姿勢もその表情も全く変わっていなかった…
「アナタ…ホントに生物兵器…?」
ウソだろ…!?今の攻撃は絶対に当たってたのに…!!
「どうなってんだあいつ!?今のは当たっただろ!?」
「どうやら一瞬で何か防御系の技を発動させたみたいですね…
しかしあの攻撃が完全に防がれてしまうなんて…っ!」
「退屈。もっと上手に踊ってみせて」
すると今度はメルトの手が俺たちに向けられる…
「“冷凍ビーム”」
「危ねぇ!!」
俺は咄嗟に背中の羽を出し、夢幻を抱えて空に避けた。
攻撃が当たった場所には大きな氷の柱ができていた…あんなのに当たったらマジで死ぬぞ…っ!!
「背中の翼…人間達の罪の証…」
「師匠…!おかしいです!!あの方の種族は冷凍ビームなど使えないはずなのに…っ!」
「確かノヴァが言ってたな…メルトの能力は“技記憶”だとか…」
「そう…それがワタシの持つ、人間達の罪の証…」
そう言うとメルトは左手で炎を、右手で氷を作ってみせた。
「ワタシは人工的に“全ての技”を発動させることができるように造られた…」
メルトはそのまま両手を俺たちに向ける…
「この能力はワタシの存在が“罪”である証拠…アナタも同じ。
その翼はアナタの存在が“罪”である証拠。一生背負っていく、十字架よ」
無表情な瞳で真っ直ぐにこっちを見つめる。
なんだか、すごく悲しい声で叫んでいるように見えるのは
同じ生物兵器だからだろうか…いや、生物兵器である以前にこの少女も生きてるんだ。
一人のちゃんとした、皆と同じ命なのに…
自分を“罪”とか“罰”とか、そんな悲しい言葉で縛り付けて
感情さえもどこかに捨てて…
多分、この空間はメルトの心の中の景色なんだろう。
光がどこにあるのか分からないから、目を瞑って眠ろうとする
壊れたガラスの靴も、破れた絵本も、崩れ落ちた少女の心の欠片
鳴り止まないオルゴールは 泣き続ける少女の助けを求める叫び声
「…夢幻、ちょっと俺危ないことするからお前は俺から離れてろ」
「え…?師匠…何を…!?」
俺は夢幻を下に降ろし、もう一度メルトと真っ直ぐになるように羽ばたいた。
メルトは両手を俺に向けたまま、人形のような瞳で真っ直ぐに見つめる。
「お前の言うその“罪”とやら、俺にぶつけてみろよ」
我ながらバカだとは思う。でも俺はこれが正しいことだと思ったから、それを信じて進むだけだ。
もちろん、さっきのはただの憶測だが俺の勘に間違いはないと思う!
正直、こんなことやって命の保証はないと思うが…それでも、放っとくことはできない。
俺も…先生に拾われるまでは同じだったから…っ!
「何のつもり…?」
「賭けをしようぜ。賭けるのは俺の命、そしてお前の“罪”だ」
「意味が分からない…」
「お前が言う“罪”はその能力。お前が言う俺の“罪”はこの原型に近い身体、
つまり生命力も含まれるってことで、勝負をしようじゃないか!
お前のその能力で俺を殺せたらお前の勝ち、お前の能力より俺の生命力が
強かったら俺の勝ち、これでいいな?」
「それで…何になるというの…?」
「だから、お前の“罪”より俺の“罪”のが強かったら、お前の“罪”は
“罪”として認めない!つまり、お前は俺に負けたら“罪”が無くなるってことだ!!」
俺も自分で言ってて意味が分からなくなってきたが…
とにかく、こいつの“罪”とか“罰”とか悲しいことをぶっ壊してやるってこと!
「そんなことをしてもワタシの“罪”は消えない…」
「俺が全部受け止めてやるよ」
「…本当にバカなのね。“ハイドロカノン”…っ!!」
誰かに受け止めてもらいたいんだ、自分の全てを…!
“罪”も“罰”もひっくるめて『いいよ』って笑ってくれる誰かが…っ!!
先生がそうしてくれたように、今度は俺も…俺と同じ境遇のこいつに!!
「師匠ぉぉお…っっ……っ!!!」
ダンプカーにでも撥ねられたような程の激しい衝撃が襲い、頭の中まで真っ赤に染まるような
感覚と、夢幻の悲痛な叫び声だけが耳に残り…意識……は…っ……――――――…
―――――――――――――――――――――――――――――――――……
―――――――――――― ――――― ――… ――
―――――――…―― ―――……… …
……… …… …
……