形あるもの 形なきもの
全て砂のように
受け止めた手の指の隙間からこぼれ落ちて
それを止める術はなく
ただ 堕ちていくのを見守るだけ
月と太陽の物語
何よこのテレポート…っ!!頭が割れるかと思ったじゃない!
全く…これなら麗のテレポートの方がマシだったわ!
…しかも何か暑くない?今度は一体どこに連れてかれたって言うのよ…
「…ハァ?どうなってんの…コレ…」
目を開けてみると一面の砂、砂、砂…
青い空には全てを焼き尽くすかのように燃えている太陽…
つまり、ここは俗に言う“砂漠”である
「目ぇ覚めたか姉ちゃん」
投げかけられた声のする方を振り返ってみると、そこには十字軍の一人がいた。
長身で変わった喋り方をする男…
「残念やったなぁ、よりによってこのリクヤ様のテリトリーに来てまうなんて」
どうやら男の名はリクヤというらしい…なんかムカツク野郎だわ。
私は服についた砂を手で振り落として辺りを見わたした。
「…ここには私とアンタしかいないみたいだけど、他の奴らはどうしたの?」
「アンタの連れはメルトかノヴァのテリトリーにいると思うで」
…ということは、私一人でコイツと戦わなくちゃいけないってワケ!?
見た目はそんな強そうでもないけど…一応コイツも十字軍の生物兵器の一人…
他の二人よりは何とかなりそうな感じもするが…いやでも…
「おい!なんか今ものごっつ失礼なこと思っとったやろ!?」
「別に」
「ウソつけ!!せやったらワイの目ぇ見て話せや!!」
喋り方同様、変わった奴ねぇ…ホントに十字軍なのかしら?
他の二人に比べると感情もあるしそれなりに話せそうだわ。
「ところで、ここは一体どこなの?」
「ここはノヴァが創った異次元空間の1つや。ホンマの世界とは繋がっとらんから
逃げよう思ったって無駄やで。こっから出るにはワイを倒すかノヴァを倒すかせんと」
「どこの空間もこんな砂漠なのかしら?私はいいけど、連れに暑いのが苦手な奴がいてね」
「空間は持ち主の潜在意識によって変わるとか何とかノヴァが言っとったような…
…ってそないなことはどうでもええねん!何喋らすんやアホッ!!」
自分で勝手に答えたくせに…なんか拍子抜けする奴ねぇ。
それはそうと、どうやらこの砂漠の景色はリクヤの心情風景ということらしい。
ひたすらに広がり続ける砂漠
先が見えず、ただずっと砂ばかりの道
それでも地面があって 空があって 世界の形はハッキリとしている
あの空の燃え上がる太陽は一体彼の何を表しているのだろうか…?
「お喋りはもう終わりや!さっさとケリつけさせてもらうで!!」
そう言うとリクヤは小さな風の塊みたいなものを作り出し、その上に乗って空へと舞い上がった。
「ワイは“最初から最終進化系体を生み出す”実験の試験体で、生まれた時から
既にフライゴンの状態で種族特有の能力も生まれた時から持っとった。
せやから自分の能力を100%以上に引き出すことができるんや!!」
リクヤが指をパチンと鳴らすと凄まじい勢いで風が舞い上がり
静かだった砂漠は突如として荒れ狂う砂の地獄と化した…っ!!
「キャアアァァァッ!!!」
やっぱりああ見えても十字軍ってことね…っ!技名を唱えていないのにこの威力…っ!!
クッ…砂嵐のせいで何も見えないし何も聞こえない…!
今リクヤが直接攻撃を仕掛けてきたら私には避ける術がないわ…っ!!
「“花弁の舞”…ッ!!」
だけど甘く見ないでちょうだい…っ!!
私だって今までボケっと過ごしてきたわけじゃないの!!
アリス誘拐事件で自分の無力さを痛いほど思い知らされた時以来、
私も毎日毎日戦闘訓練に明け暮れてたのよ…っ!!!
今度こそは少しでも力になれるように
大切なものを自分の手で守ることができるように…!
「ウラアアアアァァァッッ!!!!」
砂嵐とは逆の方向に風を発生させて打ち消しあえれば…っ!!
私はなりふり構わず全力で叫んだ。
この時ばかりは今ここにアイツらがいなくて良かったと思う…
そして…
「…ハァ……ハァ…どうよ…?」
砂嵐は消え、空からは一面に美しい花弁がヒラヒラと降ってきた。
「姉ちゃんようやるな」
「私だって…大切なものくらい…自分で守りたいもの…っ」
技の副作用で頭が混乱してしまうのを防ぐためにキーの実で調合した薬を口に含む。
万が一のために色んな木の実から調合した薬を持ってきていて良かったわ…
「アンタの守りたいものっちゅうのはグロリアとかいう軍が掲げる正義かいな?
正義の味方はええなぁ。その肩書きさえあれば誰からもいい目で見られよる。
そして自分で安心するんやろ?正義なら正しい、自分は一番正しく生きてるって」
「バカじゃないの?正義なんていう定義は人それぞれでしょうが。
その人の正義は他の人から見れば悪かもしれないし、一般的に悪と呼ばれていることだって
誰かから見れば正義にもなる…だから、正義の味方なんていうものは存在しないのよ」
リクヤは予想外の答えに驚いているというような顔をした。
私は息を整えて服や髪についた砂を振り掃う。
あー…口の中までジャリジャリで気持ち悪いったらありゃしないわ…
「私が守りたいものは自分の…“私の”正義よ。誰かから見ればそれは正義ではなく悪かもしれない。
現に、アンタ達から見た私達は正義じゃないはずよ。それでも、私の中の正義は私が決めたこと。
誰に何と言われようが、誰にどう見られようが、私の中の正義の定義は変わらない。
私が信じたもの、それが私の正義よ。たとえそれが誰かの悪だとしても」
「…自分勝手なやっちゃな」
「そう、生き物は皆自分勝手。自分の中に自分の世界があるから、自分だけの考えが生まれる。
それが他人と擦れ違い、そこから“正しい”“間違い”が生まれてくる。
所詮世界の“正しい”“間違い”なんて誰かが決めた常識でしかないのよ。
それに必ず従わなければならないなんてことは無いし、自分の“正しい”を信じればいいと思う」
「…………」
「私とアンタが戦う理由、それは守りたいものが違うから。ただそれだけのことよ。
私は私の正義を、アンタはアンタの正義を貫いているだけ。それに正しいも間違いもないわ」
リクヤの世界、何も無い砂漠。でも太陽も空も光もある。
この砂は彼の絶望を、あの空は彼の希望を表しているのだろう。
燃え上がる太陽は大切な人、希望を与えてくれる大切なもの
「ワイは、アイツらを…メルトとノヴァを幸せにしてやらなアカンのや。
正直世界がどうとか、神の裁きとかワイはどうでもええねん…
せやけど二人がそれを望むんならワイは全力でその願いを叶えてやろうと思う」
この世界に足りないのは 緑
心を癒し、木陰を作り休む場所を与えてくれる 緑
「そのためには、誰であろうと邪魔する奴は容赦せん…っ!!」
「私も同じ。立ちはだかる壁は壊さなきゃならないもの」
私は私の守りたいものを守るだけ。
アンタはアンタの守りたいものを守るだけ。
守りたいものが違う 理由はそれだけ
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