裏切られるのは怖いこと

 

だけど、人を信じられなくなるのはもっと怖いこと

 

 

 

 

それより怖いことは 自分を信じられなくなること

 

 

 

 

 

 

太陽の物語

 

 

 

 

 「バカ恐竜、生きてるなら返事しなさい」

 

 

 

 部屋の前に着いた私はとりあえずドア越しに話しかけてみた。

 応答が無ければルナの時と同じようにドアを破壊して強行突破するつもり。

 

 

 

 

 「……李苡か…わりぃ、ちょっと…今日は任務休むわ…」

 

 

 

 

 応答はあったものの、予想以上に生気の無い声に驚いた…

 

 

 

 「大丈夫、もともと今日は任務休みだから」

 

 「そっか…なら良かった……」

 

 「…アンタは?大丈夫なの?」

 

 

 「……ごめんな…みんなに迷惑…かけちまって…」

 

 

 

 ドア越しから聞こえてくる声は弱々しく、少し鼻声だった。

 …多分、泣いていたのだろう。

 

 思えばコイツもまだ18歳…

 

 まだ大きな決定を一人で出来るほど大人でもない。

 しかし自分の全てを人に任せられるほど子供でもない。

 

 

 だからこそ、不安で仕方がなかったのだと思う。

今起こっている全てのことを受け入れるのは辛かっただろう…。

 

 

 

 「…あの……さ………」

 

 「何?」

 

 

 「……俺…昨日の夜………十字軍と…会ったんだ…」

 

 

 「十字軍と…っ!?」

 

 

 

 「それで…俺の失くした記憶……11年前の…過去の記憶を見たんだ……

  俺は…研究所にいて……人間が色々話しててさ…」

 

 

 「爆破された例の研究所ね…」

 

 

 「俺…さ、心のどっかで…自分は生物兵器じゃないって…信じてたんだ…

  もしかしたら偶然…俺はあの研究所の近くで倒れてただけだって……

  でも…はっきり見せられちまってさ……俺は…やっぱり生物兵器だったんだ…」

 

 

 「だから何よ!生物兵器だろうと何だろうとアンタがアンタであることは変わらないじゃない!!

  夢幻だってルナだってサニーだって…アンタが生物兵器かどうかなんて微塵も気にしてないわよ!

  アンタだって言ってたじゃない!空を飛べるのも火を吹けるのも得だって!!」

 

 

 

 「…なぁ、生物兵器は誰が何のために造ってたか…知ってるか…?」

 

 

 

 大体の予測はできていた。

月詠から聞いた話と、見せてもらった復元資料…

 あの研究所で働いていたのは人間だけ。そして研究は秘密裏に行なわれていた。

 造りだされたのは、強大な力と能力を持つ生物兵器。

 あんなに大規模な事件が世間には知れ渡らず抹消された理由…

 

 ここまで条件が揃えば、誰が何のために造っていたかの予想はついてしまう。

 

 

 

 

 「…人間が、戦争で使うために開発していたの?」

 

 

 「そう…国が総力を挙げて開発してたんだ……。それは人間同士の戦争のため…

  そして人型をこの世界から排除するため…。そのために俺は造られた……」

 

 

 

 ウィルの声が益々弱くなっていく。

 途中で静かにすする音が聞こえてくる…泣いているのだろう…

 

 

 

 「俺は…人間を攻撃するクレド軍のせいで……人間は…人型と仲が悪くなったんだと…

  思ってた……でも…クレド軍の奴らだって…そうなる前から人間に酷いことを

  されていて…だから人間が嫌いになって……っ!」

 

 

 「……………」

 

 

 

 

 「結局…皆が皆を消そうとしてて……!何のために…俺は戦ってるのか……わからなくなって…

  何が正しくて…何が間違ってるのか……どうしてそれが正しいのか…

  もう…何を信じればいいのか…わからねぇんだよ……っ!!」

 

 

 

 

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、私の足技により部屋のドアは破壊された。

 

 粉々になったドアの破片を踏み潰して、グシャグシャな顔で弱っているバカ恐竜へと歩み寄り

 よれよれになったタンクトップの胸倉を掴んだ。

 

 

 

 

 

 「何を信じればいいか分からない…?」

 

 

 

 

 

 そして顔を近づけ、鋭い眼光で睨みつけた。

 ウィルの目は普段とは全く違う、暗く沈んだような色をしていて

 胸倉を掴まれても抵抗もせずにただ気力を失った顔で私を見ていた。

 

 

 

 

 

 「俺は…何を信じればいいんだ…?それは正しい答えなのか…?

  もし、信じたものが間違ってたら…どうすればいい……?」

 

 

 

 

 

 私はバカの左頬を目掛けて思い切り全力で平手打ちをかましてやった。

 

 打った自分が驚くくらいのパァァンという音が部屋全体に響き渡り

 平手打ちを喰らったウィルはさすがに驚いたようで、先程よりもマシな顔になった。

 

 

 

 

 

 

 「裏切られるのは怖いこと…だけど、人を信じられなくなるのはもっと怖いこと…っ!

  そう言ったのはどこのどいつだっ!!」

 

 

 

 「……っ!!」

 

 

 

 

 

 

 私はもう一度ウィルの胸倉を掴みなおして真っ直ぐと瞳を合わせた。

 

 

 

 

 「何も信じることができなかった私の心に道を作ってくれたのはアンタだろっ!?

  私はこの言葉に救われたっ!!なのに…っ!アンタは今、何も信じることができていない!!

  何を信じればいいか分からないだと!?じゃあアンタは今まで何を信じてきた…っ!

  それが正しいか間違ってるかなんて関係ねぇんだよっ!!!」

 

 

 

 「……俺が…信じてきたもの…」

 

 

 

 

 「正しいか間違ってるかなんてものは自分が決めることだっ!!

  自分が正しいと思ったものを信じていけばいいだろ…っ!それが正しいことだっ!!」

 

 

 

 

 

 

 大きく見開かれたウィルの瞳。その中にいつもの光が映る。

何も信じられないなんて、アンタには絶対に言ってほしくない…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 「私に言ったあの言葉を、嘘にしないで…っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンタが何も信じられなくなったら、あの時私に言った言葉は嘘になってしまう。

 私が信じてきたものも、アンタが信じてきたものも…全部嘘になるのは嫌だから…っ!

 

 私はアンタがくれた光を信じて歩いてきたのに

 

 

 

 

 

 

 

 「…わりぃ」

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬の間があった

 

 

 それは どういう意味の謝罪なのか

 

 

 

 

 

 

 ウィルは大きく息を吸い込んで、自分の両頬をパチンと強く叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 「サンキュー…!目ぇ覚めたわ…っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 そう言って、真っ直ぐな目で勝気に笑うコイツの顔は久しぶりに輝いていた。

 やっと闇の迷路から抜け出すことができたみたいね…

 

 

 

 

 「どうやらノヴァの奴に洗脳されてたみたいだぜ…!気持ちが落ち込んでる時に色々言われたせいか

  すっかり奴の言うことを信じ込んでたな…危うく大切なものを見失うところだった!!」

 

 

 

 

 まだ目は腫れてるが、強い光を瞳に宿すいつものアイツに戻った。

 

 やれやれ…ルナといいこのバカといい、面倒見るのは大変よ…!

 これでまたS隊もいつも通り騒々しくなるわね。

 

 

 

 「俺らしくもねーぜ、難しいことばっかり考えて頭混乱してさ…!

  自分さえ信じられなくなってたなんて最低だな俺…っ!!」

 

 「バカが難しいこと考えてもいいこと無いんだから…」

 

 「まったくだな!俺は俺を信じる!!俺が正しいと思った道を行く!!」

 

 

 「…で、アンタが正しいと思った道って何よ?」

 

 

 

 

 コイツにとっての正しいはどういうことなのか。

このままグロリア軍に残るのか、それとも十字軍に行くのか…

 もし十字軍に行くとしても私は止めない。

 

 だって、それがコイツの選んだ道ならそれを信じてほしい。

 

 

 

 

 

 

 「俺はさ、やっぱり人間も人型も原型も皆大好きなんだよ…

  だから皆で仲良くできるような世界を、何十年かかってもいいから作りたいんだ。

十字軍みたいに全部消すのも違うし、クレド軍みたいに人間だけを消すとか

そういうのは俺の望むことじゃない。やっぱり、俺はグロリア軍で色んな人を助けたり

守ったりしていきたい!これが俺の信じる俺の道だ!!」

 

 

 

 

 

 

 やっぱりとでも言うべきか、コイツはこういう奴だから分かってたわ。

 

 

 「あんだけウジウジ悩んでたくせに結局何も変わってないじゃない」

 

 「あれ?そうだな…もしかして悩み損?」

 

 「こっちは心配損よ、まったく…夢幻なんて特に心配してたわよ?

  早くそのバカ面でも見せて安心させてやりなさい」

 

 「皆に心配かけちまったなぁ…よし!早速復活宣言してくっか!!」

 

 

 

 そう言うとバカ恐竜は勢いよく自分の部屋を飛び出していった。

 

 

 

 「あ、そうそう!」

 

 

 

 と思ったらまたすぐに戻ってきて、破壊されたドアから顔を出す。

 

 

 

 

 

 「李苡、ありがとうな!!お前のおかげで大切なもの失くさずにすんだよ!

  しっかしあのビンタ効いたぜぇ〜!あれじゃあ誰でも目ぇ覚めるわな!!」

 

 

 

 

 

 そう言ってニカッと笑い、またすぐに勢いよく走っていった。

 あんなに落ち込んでたのにいきなりあのテンションで夢幻達に会ったら

 逆に驚かれるとは思うけど…まぁ、いいか。

 

 それと、大切なものを失くさずにすんだのは私の方よ。

 

 

 

 

 

 やっぱりあの時の言葉は 嘘じゃなかった

 

 それが私の大切な真実だから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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