道に迷ったとき

 

何を信じて歩けばいいのか

 

 

道標も灯りも無い

 

それでも立ち止まることはできない

 

 

 

だからこそ ただ前へ前へ

 

 

 

 

 

太陽の物語

 

 

 

 

 「師匠…大丈夫でしょうか…」

 

 

 S隊の全員が同じことを思っていた。

 

 カルムの件があって、それだけで相当なショックを受けているのに

 更に自分が人工的に造られた『生物兵器』である可能性が高いという事実を突きつけられ…

 いくら底抜けに明るいウィルも今回は精神的なダメージが大きすぎた。

 

 月詠から過去の事実を告げられ、全てを受け入れることができないと言って部屋に戻ったきり

 誰とも会おうとせず、一人で部屋にこもっているようだ。

 

 

 

 「今はA隊も全員戦える状態じゃないし…もし十字軍が襲ってきたとしても

  私達だけでバカ恐竜を守るのは正直戦力的にも無理があるわ…。

  それだけじゃない。もしこの状況がクレド軍に知られてしまった場合

  奴らは確実に襲撃に来る…そしてA隊のいないグロリア軍は恐らく負けるでしょうね」

 

 

 「戦力的にA隊に頼っていた部分は大きいですね…」

 

 

 「そうね。最近はグロリア軍、クレド軍とも戦力は五分五分である程度均衡を保っていたから

  大きな戦いもなく、すっかり平和ボケしてたのね…

  そこに強大な力を持つ十字軍が現れ、力の均衡は崩れてしまった…

  このままじゃ…いずれ近いうちに軍同士の大きな戦争が起こる可能性もあるわ…」

 

 

 

 李苡は深刻な顔で言った。

 

 事態は予想以上に危険な方向へと向かっているようだ。

 目の前には十字軍との接触の可能性。そしてもし、クレド軍が今のグロリア軍の状況を

 知ってしまった時に起こりうる最悪の事態…

 

 この件は現在、鉄司令官とグロリア軍の上層部も話し合っている。

 

 

 

 「とにかく今はグロリア軍の全体的強化、A隊以外の隊も戦闘訓練の強化がされて

  クレド軍との戦争になった場合もある程度戦えるようにしてるみたいだけど…」

 

 

 「ねぇ、リリィちゃん…」

 

 

 サニーは不安そうに李苡に問いかける。

 

 

 

 「ウィルくんは…十字軍に行っちゃうのかな…?」

 

 

 「…それは分からないわ。決めるのはアイツ自身なの。もしかしたら、同じ境遇である

アイツと十字軍は家族みたいなものかもしれない。アイツが十字軍の考えに同意して

自分で十字軍についていくと決めたなら…私達にそれを止める権利はない」

 

 

 「そっか…ウィルくんが決めることなんだね…」

 

 

 

 「でも」

 

 

 

 

 李苡は力強く言った。

 

 

 

 

 「それはアイツがそう決めたならの話。もし十字軍の奴らが嫌がるアイツを無理矢理

  連れて行こうとするなら話は別よ!その時は私達が全力でアイツを守るのよ!!

  勝ち目がないような相手でもなんとかすればバカ恐竜を連れ出すことくらいはできるでしょう!」

 

 

 

 「うん!そうだねっ!!」

 

 

 

 

 

 いつもこんな暗い雰囲気になると必ずウィルが明るいことを言って笑ってみせる。

 そうすると自然に皆も笑ってしまい、前向きに力強くいることができた。

 

 そんな彼が、今はいない。

 そのことが普段どれほど彼に精神的な面で助けられていたのか改めて思い出させる…

 

 

 

 

 「ウィルは…今、一人で苦しんでいるのだろうか…」

 

 

 

 

 ルナが小さく呟いた。

 

 ルナは特に精神面が弱く、不安定なのでウィルの明るさには助けられていた。

 最初の頃も凶悪だった自分を怖がらず、眩しいほどの笑顔で凍てた心を照らしてくれた。

 そんな彼の明るさは憧れであり、希望でもあった。

 

 暗い絶望の中、一人で何も分からずにただ不安を抱えて苦しむ辛さはルナ自身よく分かっていた。

だからこそ、今度は自分がウィルを助けてやりたいという気持ちが強かった。

 

 

 

 「俺も…一人で苦しむことは沢山あった。そういう時は誰にも会いたくないって言うけど

  本当は…誰かに助けてほしいって…多分、心の奥では思ってるんだ……

  一人で苦しんでても、どうしたらいいのかずっと分からない…ただ、苦しいだけだから」

 

 

 「ルナちゃん…」

 

 

 「…師匠は今、道に迷っているのかもしれません。暗い、絶望の中で…。

  だからこそ道標となる光が必要で…その光は決して一人では見つけられません。

  光とは、誰かの気持ち、誰かの言葉。それはきっと迷子の心を照らして

  一筋の歩く道をその人に気づかせてあげられるんだと僕は思います…」

 

 

 

 李苡も同じようなことを思っていた。

 

 昔、誰も信じられなかった自分は夢幻の言う迷子だったのかもしれない。

 戦場で生きた自分は常に一人だった。だから、一人でこれからも生きていくつもりだった。

 なのにウィルはしつこく付き纏って、自分に笑いかけてきた。

 

 そして、その笑顔と言葉は光となり歩くべき道を教えてくれた。

 

 

 

 決して一人では見つけられなかった 道

 

 

 

 

 「そうね…確かに、一人でいても道は見つからない。

  アイツが今迷子になってるなら、今度は私が道案内をする番ね」

 

 

 

 「リリィちゃん!どこ行くの!?」

 

 

 

 

 

 

 

 「いつまでもジメジメしてたらカビ生えるわよってあのバカに言ってくるわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 李苡はいつものように勝気な笑顔と頼りになる声でそう言い

 早速ウィルの部屋へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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