何が正しいことで

 

何が間違っていることなのか

 

 

そしてそれは誰が決めたことで

 

何故それに従わなければならないのか

 

 

自分は正しいのか

 

 

 

それとも…

 

 

 

 

 

 

太陽の物語

 

 

 

 

 

 全てが闇に支配された世界で、ただ堕ちていく感覚だけがハッキリとした。

 

 ここは一体どこなのか

 

 俺はどこまで堕ちていくのか

 

 

 深い闇に沈むほど、ノイズの音は遠ざかる…

 

 

 

 

 

 「そろそろ到着です。11年間眠り続けた真実に…」

 

 

 

 

 

 響き渡るノヴァの声

 

 

 その瞬間、ノイズの音は完全に消え去り今度は耳が痛くなるほどの静寂に包まれる。

 しばらくすると闇から少しずつ小さな光が近づいてきた。

 光は徐々に輝きを増し、目も開けていられないほどの眩い世界が広がり そして…――――

 

 

 

 

 

 

 

 「……は………だが……の……実験………―――…」

 

 

 

 

 

 

 薄っすらと声が聞こえる。

 何を言っているのか微妙に聞き取れない…

 

 声は次第にハッキリとして、多人数の声となった。

 

 

 

 

 「試験体593261の成長は順調です。原型との混合による細胞の変異も確認されました」

 

 

 「原型の特徴である翼もそろそろ成長が見られる頃かと」

 

 

 「しかし形状が完成しても試験体593261が最終進化形態になるまで機能はしないと予測されます」

 

 

 「その時は別室で行われている、最終進化形態を造りだす実験のデータを使えば良い。

  そういえば、試験体011503の所に新しい科学者が来たそうだな」

 

 

 「それが…喋り方やら研究方法やら色々と変わった感じの男でして…

  どうも試験体011503に名前を付けて呼んでいるそうです」

 

 

 「生物兵器に名前を付けただと…?全く、その男も何を考えているのだか…」

 

 

 

 

 実験 試験体 生物兵器 …そんな言葉が飛び交う。

 

 俺はゆっくりと目を開いた。

 視界はぼやけていたが徐々に鮮明になっていき…ここがどこなのかすぐに理解することができた。

 

 目の前にはガラスのような透明の壁

 

 その向こうには白衣を纏った人間が数人と、様々な機械がズラリと並んでいた。

 

 

 多分、ここが月詠の言っていた爆発事故が起こった研究所…

 そして…恐るべき“生物兵器”を極秘で開発していた場所なのだろう。

 

 

 

 でも…どうしてこいつらはそんなことを…?

 何のために、“生物兵器”なんか…しかも極秘で……

 

 

 

 

 「今まで何百…いや、もしかしたらそれ以上の数が造りだしては細胞の変異に耐え切れず

  死んでいったか…所詮作り物なんてのは脆く、弱い存在だ。

  しかし今、長い時間をかけてようやく細胞の変異に耐えられる作り物ができた…!

  これはまさに我々人間の科学が神の領域にまで達した証だ!!」

 

 

 「この研究が更に発展し、生物兵器を量産することができるようになれば

  世界は我々のもの…こんなに充実した研究が行えるのも全ては国のおかげですね」

 

 

 

 

 

 生物兵器を量産…っ!?

 そして…この研究を行えるのは“国”のおかげって…

 

 

 

 

 『どうですか?これが世界の真実。私達が造られた意味。

  人間は私達を使って愚かな争いを起すつもりでした。それは人間同士の国争い、

  そして人間以上の力を持つ人型の排除…もちろん、生物兵器である人型にも

  人間に反逆することの無いよう、精神制御装置などの研究もされていました。

  まぁ、この制御装置が完成する前に研究所は生物兵器により全てを破壊されてしまうわけですが』

 

 

 

 

 もしかして、この研究が極秘で行われていたわけは…

 

 

 

 

 『そうです。お察しの通り、この研究は国が行なっていたものなのです。

  しかし表向きでは国は人型と共存するために様々な処置を施したりと

  友好的に接していたわけです。それもこの“生物兵器”が完成したら終わりにする

  つもりであったのでしょうね。だからあの爆発事故が起こるまで世間には

  研究所の存在が明らかにならなかったのです』

 

 

 

 でも、月詠達はその研究所で何の研究がされていたか資料を復元して

 知ってしまったのにどうして国とかに何も言わないんだ…?

 

 

 

 『このことを申し出ても国は何も知らないふりをするでしょう。

  実際、研究内容の一部が分かっただけでそれが国により行なわれたものだという

証拠は一切無いわけですから。もしここで人型がそんなことを言ったならば

人間と人型との関係は悪化し、それを理由に国は人型の排除をすべく

戦争を起す…なんて事態にもなりかねません』

 

 

 

 

 そんな…

 人間はなんでそんなに人型を排除したいんだ…?

 

 

 

 

 『彼らは人型を恐れているからです。人間には無い特殊な能力。

  技の詠唱をするだけで水も炎も思いのままに操れる…そして身体的にも

  人間と人型では大きく違います。力の差、戦闘能力の高さ。

  このままだと人間はいつか人型に支配されてしまうと思っているのでしょう』

 

 

 

 

 だって、人型と人間の付き合いなんてもう何百年って昔から続いてるんだろ?

 それでもお互いにうまくやっていけた。

 今更なんでそんなに人間は人型を怖がって…

 

もしかして、クレド軍のせいか!?

 

 

 

 

 『恐らく。反人間の意志を持つテロ組織クレド軍。彼らが人間に対し与えた恐怖や

  被害は相当なもの。しかし、何故クレド軍が人間の排除を行なおうとしたのか…

  その理由のほとんどは人間により酷い仕打ちを受けた恨み、怒りです。

  それはつまり、どういうことだか分かりますか?』

 

 

 

 

 人間達が何もしなければクレド軍だってテロなんか起さなかったってことか…?

 つまり…クレド軍が暴れる前にはもう人間達は人型に手を出して…っ!?

 

 

 

 

 

 

 『人間と人型…それに原型。種族が違う者達が住むこの世界はあまりにも狭すぎる。

  いずれは互いに争う運命だったのです。クレド軍はその切っ掛けになっただけで、

  もしクレド軍が現れなかったなら人間か人型か、どちらかの種族が同じような

  テロ組織を作って争いの切っ掛けとなったことでしょう』

 

 

 

 

 

 

 

 結局は…人間も人型も……

 

 

 

 

 

 

 『さぁ、そろそろ時間です。続きは直接お話致しましょう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノヴァの最後の声が響くと、視界はまた闇に閉ざされ

 あの頭が痛くなるノイズが大音量で流れだす …―――――

 

 

 

 

 ―――――――…―――――――――――――……――――――……………

 

 

 ―――……―――――――………………………

 

 

 

 ………………………――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おかえりなさい。素敵な夢は見れましたか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノヴァの声で一気に現実へと引き戻された。

 周りはさっきまでの研究所ではなく、見覚えのある森の中。

 どうやら無事に戻ってこれたようだ…

 

 

 

 

 「…お前らが成し遂げたいことって……何なんだ…?」

 

 

 

 

 その質問に、ノヴァはあの微笑を浮かべ答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 「世界の浄化です」

 

 

 

 

 

 

 

 過去の記憶から引き上げられて、まだ少しのぼせてるような感覚の中

 ノヴァの声は真っ直ぐに冷たく俺の耳に入ってきた。

 

 でも、今ならこいつの言っている意味が理解出来てしまう。

 

 

 

 

 「何が正しくて、何が間違っている?どうしてそれに従っている?

  それは正しいことなのか、間違っていることは本当に間違いなのか?

  正しいことは本当に正しいのですか?その判断は誰がしている?」

 

 

 

 

 淡々と語るノヴァの言葉はまさに今自分が考えていることと同じだった。

 

 

 何が正しいことなのか

 

 どうしてそれが正しいと思っているのか

 

 

 人間が正しいのか 人型が正しいのか

 

 争いは間違いか 守るのは間違いか

 

 

 

 嘘は本当か   本当は嘘なのか

 

 

 

 

 

 

 「グロリア軍のように人間を守ることが正しいことですか?

  クレド軍のように人間を排除しようとしていることは間違いですか?

  本当はどちらも正しくて、どちらも間違っているのではないですか?」

 

 

 

 

 「俺は…俺達が…していることは………」

 

 

 

 

 

 ノヴァの言葉を聞いていると、自分が自分じゃなくなっていくような気がして…

 今までの自分はどうだった?どうして、いつもそれが正しいと信じていけた?

 

 

 

 

 

 

 「どうして世界はこうなってしまったのか。生き物が戦う術を知ってから

  この世界は争いが絶えない。何百年も、何千年も。

  戦う理由はただ1つ。この世界が欲しいから。人間も、人型も」

 

 

 

 俺は…どう思って……なんで…正しいことって…?

 

 

 

 「この世界は狂っている。生き物は欲望で色んなものを見失い、ついには

  神の領域にまで手を出してしまった。人工的に命を造りだすその技術。

  それは万物を創造した神への冒涜、そしてこの世界の終わりを意味するもの。

そうして造りだされた私達はこの世界の罪そのもの…」

 

 

 

 

 ノヴァの言葉は一つ一つが恐ろしく、重い絶望と罪のような雨を降らす。

 しかし今の俺にはそれが少し心地よく、美しく聞こえてしまっている。

 

 

 

 

 

 

 

 「私達は十字架を背負い、世界の代わりに全ての罰を受けるため生まれてきたのです」

 

 

 

 

 

 

 

 それが 正しいこと なのか?

 

 

 

 

 

 

 「だから、この狂った世界を元通りにするのです。

  人間も人型も原型も、全てのものを“無”に還すこと。それこそが世界の浄化。

そして私達に与えられた使命。今なら貴方にも解るでしょう」

 

 

 

 

 

 

 

 俺は…どこに戻ればいいんだ?

 

 これから戻るその道は、本当に正しい道なのか…?

 

 

 

 

 

 「…少し、時間をくれ……」

 

 

 

 

 「わかりました。では、明日またこの場所で。

  良いお返事を期待していますよ。この世界のために…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノヴァの真紅の長い布が美しく翻る

 

 それはまるで世界が流す血の涙のように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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