それから俺はどのくらい、ここに座っていたんだろう
何十年もいたようで
何秒も経っていないような 変な感覚
月と太陽の物語
俺はその扉の前で待っていた。
相当な時間が経っているんだろうけど、今の俺にはその感覚が分からない。
「師匠、カルムさんは大丈夫ですよ。あの人は師匠も知っての通りとても強い方です。
それに、月詠さんもああ見えて治療の腕は本物です。信じましょう」
俺のことを心配して、S隊の皆は一緒に待っていてくれた。
他のA隊達も酷い怪我を負っていたらしく、今は別の診療所で治療を受けている。
月詠は自分で“自己再生”をしつつ先生の治療をしてくれている。
しかし月詠の怪我も相当なもので自己再生ではただの気休めにしかならないらしい…
「月詠も結構な怪我してるんでしょ?長時間の手術なんか大丈夫なの?」
「月詠さんは自己回復能力が高い方ですから…それに、今回のような高度な手術を
行うことができるのは月詠さんくらいしかいないのです…」
「大丈夫だよ…二人とも、頑張ってるんだもん…!」
――――――――――――――――……
―――――――――――…
それから何時間後に、その扉がやっと開いた。
「月詠…!先生は…っ!?」
いつもとは違う手術用の服を纏い、真剣な顔を緩めないまま月詠は言った。
「正直、大変危険な状態です。外傷は酷くないのですが、内臓の方からやられて
しまいまして…手術により出血を最小限にまで抑えられるよう治療したのですが
内臓の機能は低下する一方です…」
「なんだそれ…先生は…先生はどうなるんだよっ!?」
「次の手術をするにはカルムさんの体力がある程度回復しなければ…
それまでは私も回復系の技を使ってカルムさんの治療を続けますが
やはり内の怪我というのは自分自身の再生能力に頼るしかありません…」
「俺に出来ることは…無いのかよ…!」
「大変申し上げにくいのですが、貴方にも、私にも、カルムさんにしてあげられることは
ほとんどありません…」
月詠の言葉が胸に突き刺さる。
チクショウ…なんで何もできないんだよ…!!
先生は…あの時絶望から俺のこと助けてくれたのに…俺は先生を助けることができないなんて…
「今はカルムさんの生命力を信じましょう」
「………っ」
「…そして、ウィル君。貴方にお話しなければならないことがあるのです」
その時、先生のあの言葉が頭をよぎった。
『近いうちに…彼らは…必ずキミに接触してくる……だけど…絶対に…
彼らと…戦ってはいけない……』
『キミが…“あの事件”の当事者であっても……たとえキミが…“他の者とは違う命”でも…
キミは僕の…自慢の息子であって…キミは…僕の……未来であることに…変わりは…な…いよ……』
俺にはよく分からなかったけど…間違いなくその“彼ら”というのが
先生にあんな酷い怪我をさせた奴らだということだけは直感で分かった。
「その話ってのは、先生が言ってた“彼ら”と“あの事件”のことか…?」
「そうです。…できればこんな話は貴方にしない方が良いのかもしれません。
しかし、こうなってしまった以上…貴方には知ってもらわなければならないのです」
月詠はまだ自分の怪我が痛むのだろう、近くの椅子に腰をかけてゆっくりと口を開いた。
「今からお話するのは11年ほど前に起きた、ある事件のお話です」
11年前…ってことは、丁度俺が先生に拾われた時の話…
「11年前、とある場所の研究施設が大爆発を起しました。
私達グロリア軍A隊は生存者の救助、及び爆発の原因調査という任務で
その研究所を訪れたのです」
研究所爆発事件…A隊が出動するほどの大きな事件だったなら
話くらい聞きそうだが…李苡も夢幻も聞いたことが無さそうな顔をしていた。
「皆さんが知らないのも当然です。これは公の場には公開されていない
隠された事件なのですから…」
「それは、その研究所が公の場には出せないような研究をしていたから?」
「さすがリリィさん、その通りです。そう、その研究所は人間があるモノを
作り出すために設置した場所だったのです。
世間には秘密で動いていたようで、誰もその存在を知らなかった…。
しかし大規模な爆発だったため、そこでようやく研究所の存在が明らかになった」
なるほど…でも、一体何の研究をしていたんだ?
人間達が作り出そうとしていたものって…?
「私達が駆けつけた時にはすでに研究所は崩壊し、生存者は残っていなかった。
研究技術なども全て失われ、爆発の原因も闇に消えたのですが…
何枚かの重要な書類を発見し修復した結果、そこで何の研究が行われていたのかが分かったのです」
月詠は、静かに言った。
「“生物兵器”。それがそこでは造られていた」
生物…兵器……?
「書類によると、生物兵器とはこの世で最も恐ろしく、戦うための機能を
人工的な技術で強制的に植え付け更に強大な力を発揮できるように
改造された生物…まさに生きている兵器、なのです」
月詠の説明で、この場にいる全員の顔が凍りついた。
そりゃそうだろ…なんだよ、“生きてる兵器”って…!?
「その生物兵器の実験体とされたのが我々と同じ、人型の種族でした。
記載されている情報を見るだけでも何百という人型が実験体となり、
そのほとんどが身体の拒否反応により死んでしまったようです…」
「ということは、結局その生物兵器は実際には誕生しなかったってこと?」
李苡の質問に月詠は目を逸らした。
その行動でさっきの質問の答えが大体分かっちまう…
「…その話に少し関係するのですが、私達はその崩れた研究所の付近で
一人の少年を発見したのです。歳は七歳前後、雨の中瀕死の状態で救助された
記憶喪失の…人型の少年を……」
「それって…」
「そう、貴方です。ウィル君」
嘘だろ…そんな研究所の近くで…
俺は何でそこで倒れていた? それは偶然なのか? それとも…
「…貴方は、他の方と体の構造が違う“異型”だった。
その背中に原型でしか持ち得ない翼を持ち、技の詠唱無しで火を吹くことができる…」
それだけで、月詠がこの先どんなことを言うのか予想ができてしまった。
正直、自分でも信じられない。いや、信じたくない…!
だけど…先生が言ってた“他の者とは違う命”それはこういうことなんだろ…?
「…それは俺がその研究所で造られた“生物兵器”だってことか……?」
月詠は否定もせず、肯定もせず、ただ黙って俺を見ていた。
「そ…そんなわけ…だって、師匠がそんな……っ」
夢幻も信じられないようで月詠に問いかける。
月詠は静かに口を開いた。
「私もカルムさんも、これはただの偶然だと思っていたかった…
しかし、今日“彼ら”と会って…事実を告げられたのです…」
「その“彼ら”ってのは誰なんだよ!先生をあんなにした奴らなんだろ!?
そいつらと俺は何の関係が…っ」
自分で言って、答えが分かっちまった…
今までの話の流れ…そしてこの俺と関係がある、“彼ら”というのは…
「彼らの名は“十字軍”。異常なまでの身体能力、改造された力…
そう、彼らはあの研究所で造り出された“生物兵器”の生き残り…!」
十字軍…
先生を傷つけた許せない奴ら
そして
俺と同じ“他の者とは違う命”
「彼らはウィル君、貴方を捜していました。おそらく、連れ戻しに来たのでしょう…
近いうちに彼らは必ず貴方の前に姿を現します。
何か…恐ろしいことを成し遂げるために貴方の力を必要としている…」
そんなこと…言われたって…
俺だってどうすりゃいいのか分かんねぇよ…っ!
急に“生物兵器”なんて言われても実感湧かねぇし…
十字軍の奴らが俺を連れ戻しに来るとか…だってそいつらは先生に酷いことした奴らで
…それで、俺と同じ研究所で造り出された生物兵器で…
同じ…命……で…
「…ごめん、今日は色々ありすぎて何も考えられねぇ……
生物兵器とか…十字軍とか…。先生だって…今、大変なのに…」
「……そうですね、カルムさんのこともあるのに色々お話してしまってすみません。
今日は部屋でゆっくり休んでください。その後のことは…また後で考えましょう…」
目を瞑りたくなった
こんな感覚は あの雨の日に独りで倒れていた時以来だ ――――――…