過去は無くても

 

未来ならいくらでも作ることができる

 

 

だから生きて

 

 

 

広がる未来を 走り抜けて

 

 

 

 

 

 

太陽の物語

 

 

 

 

 「う〜ん…!今日も大変な任務だったねぇ、ぼく疲れちゃった」

 

 

 Sランクという危険な任務を果たし、A隊はグロリア軍基地へと戻るところであった。

 

 今回の任務はクレド軍によるテロ活動の鎮圧ということで、戦いも激しかった。

 幸い、敵は数ばかりの下層部の連中だけだったので任務は無事に果たすことができた。

 

 

 

 「もう歩きたくないよぉ…麗がいればテレポートで一瞬なのになぁ」

 

 「ちょっと聖ちゃん、麗ちゃんのことタクシー代わりだと思ってるんじゃないでしょうね?」

 

 「だって麗のテレポートすごく便利じゃん!あ!そうだ!!

  チェンジが麗に変身してテレポート使えばいいんじゃないの!?」

 

 「You、そうやってすぐにラクしようと思ってはいけマセン。自分で歩きナサイ」

 

 「そうそう、チェンジさんの言う通りだよ。折角貴方には足という神様からの

授かりものがあるのだから。歩くことができるという幸せに感謝しようね」

 

 「まっ!さすがカルムちゃん♪とっても良いこと言うじゃない!

  聖ちゃんもこの二人を少しは見習いなさいな」

 

 「やだヤダァ!!疲れたぁ!足痛いよぉ!!もう歩けないっ!!!」

 

 「しょうがないわねぇ…だったらここはA隊のオネィサンである私が

  優〜しく、この美しい魅惑の背中であなたのこと…おんぶしてア・ゲ・ル…」

 

 

 そう言って水霧が聖に魅惑のポーズでウインクを飛ばすと、

体中にゾクゾクと悪寒が走りぬけ、顔を真っ青にしながら聖はカルムの後ろに隠れた。

 

 

 「水霧におんぶされるくらいだったら自分で歩く方がずっとマシだよぉ…!!」

 

 「んまぁ!失礼しちゃうわ!!」

 

 「あ〜、早くまた麗と任務したいなぁ…。麗は優しいからすぐにおんぶしてくれるし」

 

 「だからそうやって麗ちゃんを乗り物代わりにしないの!…でも、確かに早く

  麗ちゃんと会いたいわ…あの美しい顔を見るか見ないかだけで一日のテンションが違うのよね…」

 

 「心配しなくても麗君なら次の任務でまた一緒にお仕事できますよ」

 

 「えっ!?それ本当なの月詠ちゃんっっ!!?」

 

 「そういえば、麗君は一回グロリア軍を辞めたそうだね。今の状況はどうなってるんだい?」

 

 

 「今は元通りですよ。麗君は一度辞表を提出したからまた一からやり直しするつもりだった

  そうですが、鉄司令官が『辞表?はて、そんなもの無くしてしまったよ』とか言って…

  あれ絶対わざとですよ、棒読みでしたし。まぁ、そんなこんなでG隊に戻ってきたそうです」

 

 

 「わーい!また麗と任務できるんだね♪でもなんで麗は一回軍を辞めたんだろ?」

 

 「ああ…それはですね…ククッ…!アレですよ…プククッ…!!

  若さゆえの…青い春をですね…ククククッ!!若いって素晴らしいですよねっ!!!」

 

 

 月詠は所々笑いを堪えながら意味不明な説明をした。

 なんとなく水霧には伝わったらしく月詠と二人でニヤニヤしていた。

 

 

 「二人とも気持ち悪いよ〜」

 

 「You、あの二人は放置しておいた方がいいデス」

 

 

 

 意味が分からなくて困っている聖、呆れたようなチェンジと微笑むカルム。

 そんないつもと同じA隊の光景が…

 

 

 次の瞬間には 掻き消される事となった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ッ!?』

 

 

 

 今までの会話は全て一瞬で中断された。

 

 A隊は皆、任務時以上の真剣な目つきになって辺りを見回した。

 

 

 

 まるで時が止まったような静寂が流れる…

 

 

 

 

 伝わってくるのは、今まで感じたこともないような強大で恐ろしい程の力。

 それは一度対峙したことのあるクレド軍のアスタリスクを上回るほどのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はじめまして。グロリア軍、A隊の皆さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰も口を開くことさえ出来ない恐ろしい静寂の中、どこからか男の声が響いた。

 

 

 現れたのはたった三人。

 

 黒色を基調としたドレスを身に纏う無表情で人形のような少女。

 背が高く、冷めたような蒼い瞳で鋭く睨んでいる青年。

 

 

 そしてその二人の中心に立つ人物は、視界を閉ざすように長い布で目を覆い、

 感情など微塵も感じさせないような微笑を浮かべる青年だった。

 

 

 

 

 

 

 「私は十字軍のノヴァと申します」

 

 

 

 

 

 

 十字軍と名乗る三人はA隊へと近づいてきた。

 A隊は無言のまま戦闘の体勢を取り、三人を警戒する。

 

 

 

 「少し、お伺いしたいことがありまして」

 

 

 

 目隠しの男…ノヴァは相変わらず感情のない微笑を浮かべたまま訊ねてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 「そちら…グロリア軍に、翼の生えた異型の男性はいますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 その問いに、カルムは誰のことを言っているのかすぐに見当がついた。

 

 とある場所で発見し、記憶を無くした少年…

 カルムはその少年に名前を与え、我が子のように育ててきた。

 

 

 

 

 

 

 

 「さぁ、知らないね」

 

 

 

 

 カルムは冷静を装ってそう答えた。

 

 その答えにノヴァは微笑し、カルムを見つめた。

 

 

 

 「嘘はいけませんね。彼のことは貴方が一番良く知っているはずでしょう?

  それとも…我が子のように育ててきた彼を守るために言ったのでしょうか」

 

 

 「…っ!!」

 

 

 

 「貴方は昔、ある任務の遂行中にまだ七歳前後である彼を発見した。

  その少年は酷い怪我を負って雨の中、瀕死状態で倒れていた。

  保護された彼は以前の記憶が無くて自分の名すら分からない状態だった。

  貴方はそんな彼の親代わりになることを決心し、彼に新たな名を与えた…」

 

 

 

 

 ノヴァは淡々とカルムの過去を語り、ついに少年の名を突き止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「彼の名は…――――― ウィル ですか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノヴァがその名を口にした途端、カルムの目つきが変わった。

 普段は見開かれることのない藍色の瞳が鋭くノヴァを突き刺した。

 

 

 

 「…過去のことは調査済みってことかい?」

 

 

 「いいえ、全て今知ったことです」

 

 

 

 カルムの鋭い視線になど全く怯むこともせず、ノヴァは微笑を保ったまま続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 「今の情報は、貴方の過去を拝見して得たものです」

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉を聞き、月詠は何かを確信したかのように小さく頷いた。

 

 

 

 「十字軍のノヴァ…噂には聞いていました。貴方はその目で人の過去や未来を

見ることができると…どうやらそれは本当らしいですね…」

 

 

 「現に今、貴方の過去も私には全て見えていますよ。

  貴方が一番幸せだった日々のこと、そして全てを失い絶望した日々のこと」

 

 

 「私の過去なんて見ていてもつまらないと思いますが」

 

 

 

 

 

 「貴方は愛していた人間の女性を失い、一人になった」

 

 

 

 

 

 月詠は至って冷静で、何の動揺も見せずに聞いていた。

 微笑するノヴァに対して月詠も微笑んでみせた。

 

 

 

 

 「少し間違えていますよ。“愛していた”ではなく“愛している”女性です」

 

 

 

 

 

そして、いつも大切に持っている赤い布のついた扇子で口元を少し覆った。

 

 

 

 

 「彼女は、今でも私の愛しい妻なのですから」

 

 

 

 

 そんな月詠とノヴァの会話を聞いていた十字軍の碧眼の男が、苛立った様子で

 ノヴァへと歩み寄り口を開いた。

 

 

 

 「おいノヴァ、無駄話はその辺でええやろ。こないなことしてへんでさっさと

  アイツのこと探しに行こうや。情報はもう十分に揃ったんやろ?」

 

 

 「リクヤ、貴方は相変わらずせっかちですね。もう少し落ち着きなさい」

 

 

 

 リクヤと呼ばれた碧眼の男はノヴァの落ち着き払った言動に呆れるように肩を落とし

 わざとらしく大きな溜息をついてみせた。

 どうやらこの男だけは他の二人に比べると感情というものがあるらしい。

 

 

 

 「オマエなぁ…ワイらにはもう時間があらへんちゅうこと忘れてへんか?」

 

 

 「忘れてはいませんよ。ただ、できるだけこの場で集められる限りの情報は

  集めておいた方が良いと思いましてね…後々何かの役に立つかもしれませんし」

 

 

 「今はそないなことよりアイツの捜索優先やろ。で、居場所とか分かったん?」

 

 

 「はい。居場所も、今の姿も…全て見せていただきました。

  どうやら彼はまだ記憶が戻っていなく、自分が何者なのか理解していないようです」

 

 

 「気楽なもんやな、記憶無くして平和ボケしてるんちゃうか」

 

 

 

 十字軍と名乗った三人は攻撃も何もせずにその場を立ち去ろうとした。

 しかし、先程ウィルの名前が出てから嫌な予感のしているカルムが三人を呼び止めた。

 

 

 

 「…キミ達は、その記憶喪失である少年を何故捜しているのかな?

  そしてその少年を…一体どうするつもりだい……?」

 

 

 

 カルムはタバコを一本銜え、それに火をつけた。

 

 

 

 

 

 

 「返答次第では、僕はキミ達と本気で戦うことになる」

 

 

 

 

 

 

 ノヴァは足を止め、静かな微笑を湛えながら振り返った。

 

 

 

 「まだ気づきませんか?よく過去を思い出して、少し考えれば分かるでしょう。

  貴方があの日、何の任務であの場所にいたのか。その場所がどんな所だったのか。

  そして貴方はそこで記憶喪失の彼を発見した…偶然だと、思いますか?」

 

 

 「………っ!!」

 

 

 

 

 強い風に、ノヴァの視界を閉ざしている紅く長い布が空中でなびいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「彼は、私達と同じ“ あの事件 ”の 関係者なのですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉に、カルムは絶望する。

 

 本当は昔から薄々気づいてはいた、しかしどうしても真実を認めたくなかった。

 もしそれが本当なら、彼は………

 

 

 

 

 

 「私達は彼を連れ戻しに来ました。記憶を失い、何も知らない彼に真実を伝え、

自分が何者であるかを、そして忘れられた使命を思い出させるのです」

 

 

 

 

 

 感情も何も感じられない、操り人形のような微笑を絶やさずに…

 そして、絶望の闇に響くような心のない声で 言葉を紡いだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…―――――― 世界に 神の裁きを 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 感情の無い声と微笑が、その言葉を恐怖の音に変えた。

 たった一言だけでこの場所全てに絶望を降らし、言葉を聞いた者は

 得体の知れない恐ろしい力に身動きが取れなくなる程の恐怖を感じた。

 

 

 

 

 

 「我々の邪魔をしない方が身のためですよ」

 

 

 

 

 

 しかし、それでもカルムは立ちはだかった。

 勝てる見込みなど全く無い、それどころか下手をすれば自分は殺されるかもしれない。

 

 それでも あの笑顔を守るために

 

 

 

 

 「絶対に、あの子には手出しさせない」

 

 

 「…そうですか。ならば、力尽くで分かっていただくしかないようですね」

 

 

 

 

 

 

 

 カルムは新しいタバコに火をつけた。

 赤い炎が揺らめいて 空には一筋の白い煙が立ち昇る…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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