とらないで
ボクから、とらないで
その子を 返して
月と太陽の物語
最近聞こえなくなった、ボクの中にいる“僕”の声。
ボクが封印されていた時はいつも泣きながらボクに謝っていた…あの声。
それが…この前、そう…ルナちゃんが麗くんを追いかけに行ったとき、
一瞬だけ“僕”の声が聞こえたんだ。
『行かないで…ずっと僕の傍にいてよ…!僕から逃げないで!一人にしないで!!』
その時、ボクの中の何かがドクンってなって…無意識に口が動いたんだ。
ルナちゃんは…ボクのところに帰ってくるよね…?
自分でもワケのわからない変な質問だった。
あの時のボクは…一体どんな顔をしていたんだろう…
そして次の日にはルナちゃんが帰ってきた。麗くんと二人で…。
どうやら上手くいったみたいで二人とも幸せそうに微笑んでいた。
あんな風に微笑むルナちゃん…初めて見た…
本当に幸せそうな、温かくてやわらかい…優しい笑顔。
すごく…お母さんに似ていた。ルナちゃんには言わなかったけどね。
ルナちゃんはよく、兄さんは本当に母さんに似ていますよねって言うけど
優しく微笑んだときのキミの方がずっとお母さんに似てるんだよ?
だって ボクはそんなに優しく微笑むことができないよ
ボクは…本当に自分勝手。どうして、素直に喜べないの?
ルナちゃんは麗くんと一緒にいることが幸せだって…わかってるのに。
とらないで ボクからルナちゃんをとらないで
心の奥で冷たく響く氷の声。
ルナちゃんはいつかボクから離れて、自分の道を歩みだす。
わかっているのに、それを受け入れられないボクは…自分勝手で我侭な子供だ…。
ルナちゃんがいつまでもボクに縛られて生きることは嫌だ。
でもキミは優しいから、もしボクが一生傍にいてって言えば、キミは優しく微笑んで
ハイって返事をするだろう。
そしてキミは自分の幸せも捨てて、一生をボクのために捧げるだろう。
…ボクは、そんなキミを見たくない。
だから、今回のことをボクは喜んであげたいのに…
キミが自分の意思で行動したこと、ボクはすごく嬉しいよ。
ボクのためじゃなくて、自分のためにキミは行動を起こしたんだ。
そして、自分の幸せを手に入れた。
だから キミはそんなに優しく微笑むことができるんだ
これがキミの第一歩。自分の道を歩きだした、大きな大きな一歩だよ。
それでもまだ、キミの心にはボクという鎖が付きまとっている…
鎖はボクの腕に続いていて、それを引っ張ればキミはまたボクのところに戻ってくる。
この鎖を断ち切らない限り キミはいつまでもボクに縛られる
そして この鎖を断ち切れるのは ボクなんだ
でも、ボクはこの鎖を握り続けている。いつでも引っ張れるように…
この鎖さえあれば…キミは遠くに行けないから。
―――――…っ! 嫌だ!イヤだ!!
どうしてこんなことしか考えられないの…!?ボクは…ルナちゃんに…幸せに……っ!!
なのに…なんで……なんで、ボクはまだキミを苦しませるようなこと…!
『逃がさないよ、僕のナイト』
また、“僕”の声だ…
この声を聞くと…意識が遠くなる……
『あの子は僕達を守ってくれる存在…そう、それだけの存在』
それは違うよ…“僕”。
「違うよ…ルナちゃんは……ボクの大切な…家族…妹だよ…
本当はお兄ちゃんであるボクが…ルナちゃんを守って…あげなきゃ……」
『じゃあ、なんでキミはまだあの子を離さないの?』
本当だよね…自分でも言ってることとやってることが違うの…わかってる…。
『離せない、から?』
「……………」
『いいんだよ、それで。キミとあの子が双子で生まれてきた意味はそれなんだから』
双子で生まれてきた…意味…?
『いずれ分かるさ。だから今はその鎖、握り締めておいてね』
ダメだよ…これ以上、ボクのせいでルナちゃんが苦しむのは…
やっと…ルナちゃんは自分の道を歩き出したんだから……
『もし手放したら、キミは僕に殺される』
ねぇ…キミは一体誰なの……?どうして…
『 いずれ わかるよ 』
そして“僕”の声は消えていった。
…ボクがルナちゃんを手放せば、ボクは“僕”に殺される……?
それは…どういう意味なんだろう…
でも、ボクがキミを手放せないのは“僕”のせいじゃない。
それは 自分勝手な太陽の 我侭な 願い
第三章
『約束』
完結
物語は第四章へと続いていく…