傍にいて

 

そんなことは言えない

 

それはただのワガママでしかないのだから

 

迷惑はかけたくない

 

 

 

だから どうか …

 

嫌いにだけは ならないで

 

 

 

 

 

 

太陽の物語

 

 

 

 

 

 

 あれからしばらくして、俺は任務に復帰した。

 休養期間中、兄さん達が見舞いに来てくれたが麗の姿を見ることは一度もなかった。

 

 夢幻に麗のことを訊くのも何か気まずいので俺は何も訊かなかった。

 

 

 休養中はずっと麗のことばかりが頭に浮かんでいた。

 あの笑顔や声を思い出すたびに、心拍数が上がり鼓動が高鳴る。

 本当に病気なのではないかと思うほどに頭がボーっとして熱い…

 赤くなった顔を隠すように布団を被り、枕に顔を埋める。

 

 どうしてこんなことになってしまったんだ…?

 

 これでは、今まで通りに麗と接することができないではないか……

 

 

 

 そんなことばかりを考え、休養期間中はどうも落ち着かなかった。

 こうして任務に復帰して体を動かしている方が俺にとっては休養になる。

 

 

 

 「ルナ、アンタこの任務が終わったら私の部屋に来なさい」

 

 「何故だ?」

 

 「たまには女同士で語り合うのもいいじゃない?」

 

 

 

 と、何か意味深に言われたので俺は任務終了後、李苡の部屋へと向かった。

 

 あの含み笑いを見ると、どうもあの時の月詠を思い出す…なんて、李苡に言ったら

 確実に強烈な回し蹴りを食らうハメになるので口には出さなかった。

 

 

 「俺だ、入るぞ」

 

 

 李苡の部屋に入ると…何故か李苡は後姿で腕を組み、やけに楽しそうなオーラを放っていた。

 

 

 「フフフフ…ルナ、単刀直入に言うわよ…?」

 

 

 そして振り向いた李苡の顔は…やはりあの時の月詠と同様ニヤニヤしていた。

 

 

 「ズバリ!!アンタ…麗のことが好きなのねっ!!?」

 

 「…まぁ、うん。そうなんだろうな」

 

 「あら?意外に冷静な反応ね…もっと慌てふためくと思ってたのに」

 

 

 それは…李苡の顔があの時の月詠と同じだったからなんとなく展開が分かってしまった、とは

 口が裂けても言えない。月詠と同じ顔なんて言ったら…ウィルの二の舞だ……。

 

 李苡は思っていたのとは違う俺の反応に少しガッカリしたようだ。

 それと同時に、俺があっさりと事実を認めたことに驚いている。

 

 

 「その様子だと…もうとっくに心の準備はできてたみたいね」

 

 「いや…準備ができているわけではない……まだ全然…」

 

 「まぁ、アンタにとっては初めての感情だし、慣れないのも当然よ」

 

 

 李苡はベッドの上に腰掛け、緊張が緩んだようなため息をついた。

 …ん?待てよ……何故李苡がこんなこと知っているんだ?

 

 

 「それより…何でお前がこのことを知っているんだ…?」

 

 「女の勘よ」

 

 

 女の勘とはそんなことまで分かってしまうのか…改めて恐ろしいものだと思う。

 

 

 「で、どうなの?」

 

 「どうって…何が…?」

 

 「この話の流れからきたら麗のことに決まってるでしょ!!会ったり話したりしてる?」

 

 「…最近は、手合わせの時しか会っていない。話すことも必要最低限のことだけだ」

 

 

 そう、それだけだ。

 手合わせの時に少し会って、戦い方について話して…さっさと帰ってしまう。

 

 何故か…最近麗は俺の前で笑わなくなった。

 

 少しずつ、俺との距離を置いているようだ…

 

 

 

 離れていく麗を 俺はただ見ているだけ

 

 

 

 

 「はぁ!?自分から散々世話焼いといて何してんだあの男はっ!?」

 

 「でも、いいんだ。これで」

 

 「…ルナ?」

 

 

 

 そう、これでいいんだ

 

 

 手合わせを頼んだのも俺、勝手にいなくなったのも俺…

 

 麗は、ただ俺のワガママに付き合ってくれただけなんだ

 

 

 俺は 麗の迷惑でしかない

 

 

 

 「これ以上、俺のワガママに麗を付き合わせて迷惑をかけたくない。

  だから…いいんだ。きっとこのままだと…またワガママ言って麗を困らせる」

 

 

 

 好き

 

 それは俺からの一方的な感情

 

 

 そんなこと伝えても

 

 きっと麗には迷惑でしかない

 

 

 好き

 

 これはただの 俺のワガママ

 

 

 

 

 「嫌われたく…ないから……」

 

 

 

 

 それでも一つだけ ワガママなことを願う

 

 

 

 嫌いにならないで

 

 

 

 それだけで、いいから

 

 

 

 

 「傍に居たい…なんて、それは贅沢すぎる。

  俺は、麗に嫌われなければ…それでいいんだ。たとえ、好きになってもらえなくても」

 

 

 

 少しの時間でも、麗に会うことはできる。

 こうしてまだ手合わせを続けてくれるうちは、大丈夫。

 

 

 

 

 「…アンタ、結構大人になったわね」

 

 

 李苡は静かに微笑んだ。

 

 

 「でも、ちょっとまだ悪い癖は直ってないみたい」

 

 「………」

 

 「どうしてそういつもアンタは自分が悪いって思い込むのかしら?

  迷惑かけたくないとか、困らせたくないとか…そんなことばっかり言ってると何もできないわよ」

 

 

 李苡は立ち上がって俺の肩を掴むと、そのまま無理矢理ベッドの上に座らせた。

 俺は抗うこともなく李苡のベッドに座らせられると、今度は李苡が立ち上がり

 高さ的に俺が李苡を見上げることとなった。

 

 

 「そうやって自分の気持ち押し込めてただ見てるだけじゃ、いつか絶対後悔するわよ?

  何も伝えられないまま、アンタは遠くで麗を見てるだけ…それで本当に満足?」

 

 

 本当は、傍に居たい。

 近くに居てほしい…そしてこの想いも伝えたい。

 

 しかしそれも俺の勝手なワガママ

 

 麗に嫌われるよりは、自分が苦しいだけの方がずっとマシだ。

 

 

 

 「でも、これ以上は望んではいけない。もしこれ以上ワガママ言ったら

  …いつか麗は、本当に俺の前からいなくなってしまうから……」

 

 

 手合わせのときの…ほんの少しの時間でも、大切なんだ。

 これ以上何かを望み、この時間も無くなってしまったら…

 

 

 

 この手合わせの時間だけが 俺と麗を繋ぎ止める唯一の希望だから

 

 

 

 

 「…だから、もうワガママは言わない。今の状態で俺は満足してる」

 

 

 

 俺はそう言って立ち上がり、李苡の部屋を出ていこうとした。

 

 

 「アンタがそれでいいならとやかく言わないけど…気をつけなさいよ、色々とね」

 

 

 その言葉に軽く頷き、小声でありがとうと呟いた。

 声が李苡にまで届いたのかは分からないが李苡は呆れたような顔で微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 「…まったく、アンタら見てるとこっちまで心配になるのよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Back        Next