美しい花が散る

 

ひらり ひらり

 

 

それをただ見つめている

 

自分は誰なのか

 

ここはどこなのか

 

 

その花びらが雪に変わった

 

 

幸せは悪夢に変わった

 

笑い声は叫び声に変わった

 

 

 

ここはどこだ

 

自分は…誰だ……

 

 

 

 

 

太陽の物語

 

 

 

 

 

 雪の降り積もるこの虚無の世界に、男は一人足を踏み入れた。

 

 その手には、“約束の印”をしっかりと握り締め。

 

 

 

 『気配からすると…この辺のはずだが…』

 

 

 

 男は真っ白な世界を見回し、ある人を探した。

 しかし、表面上で見る限りではその人物はいないようだった。

 

 

 『…!雪の中か…っ!?』

 

 

 より強く“約束の印”に残るその気配と同じものを探し出そうと意識を集中させた。

 

 そしてある一点の場所から、その気配は感じられた。

 

 

 

 『頼む…間に合ってくれ……!!』

 

 

 

 男…――麗は冷たい雪を必死で掻き分けた。

 この場所に来た時からすでに寒さで感覚を失っていた手が更に冷たくなる。

 

 すると、その冷たい雪の中から黒い衣服を纏った女の姿が現れた。

 肌は雪のように白く、目は閉じられている。

 整った顔立ちで美しく雪の中で眠る姿はまるで人形のようだった。

 

 

 「ルナ殿!!」

 

 

 麗はその肌に触れた。

 それは雪よりもずっと冷たく、まるで氷のようなものだった。

 感覚を失っていた麗の手からでもその冷たさははっきりと伝わった。

 

 絶望的な状態だったが、幸運にもルナは氷の属性を持つ。

 そのおかげで体温が著しく下がっても他の者よりは生存率が高い。

 

 麗は急いでルナの体を起し、テレポートで医務室まで移動しようとした。

 

 

 

 「…ん……」

 

 

 

 人形のようにピクリとも動かなかったルナの体が少し動き、微かな声が発せられた。

麗はそれに気づき心底安心した。

 

しかし、ゆっくりと開けられたその赤い瞳は以前のルナのものではなかった。

 

 

 恐怖と絶望に満ちた真っ赤な瞳、それはまるで幼い子供のように純粋で残酷だった。

 

 

 

 

 「い…いやあああぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

 

 麗を見た瞬間、ルナは断末魔のような叫びを上げて麗を突き飛ばし

 自分は後ろに下がっていった。

 

 

 

 「来ないで…!!やめてっ!!!」

 

 

 

 瞳からは涙が溢れていて、恐怖の色はより一層強くなっていた。

 

 まるで麗のことを知らない様子で、その酷く怯える姿は子供のようだった。

 

 

 「ルナ…殿……?」

 

 

 さすがの麗も混乱していた。

 一体ルナはどうなってしまったのか、目の前の状況に思考が追いつかない。

 

 

 

 「あなた…誰なの…?お兄ちゃんをどうして連れて行ったの…?

  わたしのママとパパは……?」

 

 

 

 その言葉を聞いて、麗は納得した。

 

 今のルナは“過去”に戻ってしまっている。

 そして麗のことを認識できず、ただ恐怖に怯える少女になっているのだ。

 

 

 雪によって過去を思い出し、そのショックでこうなってしまったのだろう。

 

 麗はルナの過去がどのようなものだったのかは知らなかった。

 この怯え方から見るとよほど酷い過去だったということは察することができる。

 

 

 

 「あなたが殺したの…?わたしのママとパパを…」

 

 

 

 今のルナには麗は麗として認識されていない。

 おそらく、今のルナには“恐怖の対象”として見えているのだろう。

 

 

 「どうして!?お兄ちゃんは何も悪いことしてないよ!!

  なのに何で閉じ込められるの!?どうしてママとパパは殺されちゃうの!?」

 

 

 幼い子供に戻った口調で、壮絶な過去を叫んだ。

 麗はそれを止めようともせず、幼い少女の叫びを聞いていた。

 

 

 「ねぇ…なんでわたしは殺さないの…?どうしてわたしだけが生き残るの…?

  一人にしないでよ…わたし、怖いよ……」

 

 

 ルナは両手で顔を覆って泣き崩れた。

 

 

 

 

 しかし次の瞬間には、恐怖よりも強い怒りの感情に支配された瞳で突き刺すように睨みつけた。

 

 

 

 

 「何故だ…何故わたしを殺さない…!!ならばわたしが貴様らを殺してやろう…!

  後悔するがいい…わたしをあの時殺さずに、血塗られた道を歩ませたことを!!」

 

 

 

 その喋り方は先程の少女のようなものではなく、低く鋭い声色だった。

 

 麗が察するに、今の状態は“ルナ”に近い“過去のルナ”なのだろう。

 パニック状態になって“現在の思考”と“過去の状態”が混ざっているようだ。

 

 

 

 

 「…もう、大丈夫だ。君の悲劇は全部終わった」

 

 

 

 

 麗は優しくそう言った。

 

 

 

 「未来の君は、兄や仲間達と笑って生きている。とても、優しく笑えているよ」

 

 

 

 目の前にいる“過去のルナ”に“ルナ”がどんなふうに生きているかを教えた。

 すると過去のルナは狂ったように叫びだした。

 

 

 「わたしはっ!この手で沢山のものを壊し、殺してきた!!

  真っ赤な血をこの身体に染み込ませてきた…っ!!

  様々な叫び声の中、ただひたすらに殺戮と破壊を続けて生きてきた…!!!」

 

 

 その瞳からは涙が溢れてきて、叫び続けながら泣いていた。

 

 

 

 

 「そんなわたしが…何故今ここにいる……何故笑っていられる…

  許されない…ことなのに……っ」

 

 

 

 

 まるで自分自身に言い聞かせるような声で、苦しそうに叫んだ。

 

 下に俯いて両手で顔を覆い、謝るように泣き続けた。

 

 

 真っ白な雪の中で一人立ち尽くすその姿は、孤独な少女の心そのものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「君よ、どうか幸せに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 優しい声が響いて、顔を上げたその瞬間、孤独な少女の体は抱きしめられた。

 

 

 ルナは驚いたように目を見開いて、一滴の涙が頬を伝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「もうこれ以上君が悲しみの中で涙を流さぬよう、祈るから。

  苦しい過去も、全て拙者が受け止めてやる。だから孤独に泣かないでくれ…」

 

 

 「あなた…は……」

 

 

 

 

 「―――――…もし苦しすぎる過去に潰されそうになった時は、必ず拙者が助けに行く。

  どこにいても、絶対に捜しだして守るから。約束しよう―――――……」

 

 

 

 

 麗はあの時にルナと誓った約束の言葉を、少女の心まで届くように繰り返した。

 

 

 

 

 その瞬間、ルナの意識は“現在”に引き戻されていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 過去に閉じ込められたルナの視界が最後に見たものは、

ずっと自分の中で降り続けていた白い雪が、淡い桃色の花びらに変わり

そこで幸せそうに微笑んでいる“わたし”が手を振っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『もう冷たい雪は降ってないよ。すごくキレイな花が降ってる

  大丈夫だよ、もう悲しくも寂しくもないから。“わたし”は幸せだよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ずっと苦しんでいた幼い自分はもういない。

 

 今は大好きなあの花の中で微笑んでいる。

 

 

 

 “俺”も最後に微笑んで“わたし”に手を振った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…れ…い……?」

 

 

 現実に戻ってきたルナは、その温もりの主を認識して抱き返した。

強く、強く、まるで自分の存在を確かめるように。

 

 麗はとても温かかった。

 氷のように冷え切った身体に熱が広がっていく。

 凍ってしまった心ごと、優しく溶かしてくれるようだった。

 

 

 

 

 「約束…守ってくれてありがとう……」

 

 

 

 

 ルナは今までで一番優しい顔で微笑んだ。

 

 そして、微笑み返してくれた麗の顔を見て目を閉じ

 幸せと優しい温もりを感じながら、彼の腕の中でゆっくりと眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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