何故、ルナ殿には発作が起こらなかったのか
近づくことも、触れることもできた
こんなこと 十数年前に出会った あの娘以来だ
月と太陽の物語
その後、拙者は自室に戻って考えた。
ルナ殿には何故発作が起こらなかったのか。
夢幻が言うに、拙者とルナ殿は内面的な何かが似ているということだが…
確かに拙者も初めてルナ殿と対面した時、何やら不思議なものを感じた。
似ている…とかではなく、何かこう…言葉で言い表すのが難しい…
何かが絡まるような、何かがほどけたような
懐かしく感じ、それを悲しく感じ…
訳の分からぬことばかりだが、そんなものをルナ殿に感じた。
「…そういえば、昔にもこんなことがあったな……」
ふと、古い記憶が脳裏をよぎる。
幼き頃の昔の記憶なので、鮮明には思い出せない。
たった一日の出来事だったが、拙者には大きな一日だった。
しかし、思い出とやらは月日を重ねる事に消されていってしまうものだ。
それがどんなに輝かしい記憶でも、いつかは埃をかぶって眠る日が来る。
形無き、記憶達は埋もれてしまう。
あの娘は元気にしているだろうか?
果たせなかった約束、まだ覚えているだろうか…?
いや、そんなことはありえないな。
記憶は埋もれる、思い出は眠る。それが美しい思い出であればあるほどに。
何故か、苦しい記憶や悲しい記憶といったものばかりはいつまでも鮮明に残る。
きっともう、あの娘も拙者のことなど覚えていないだろう
名も知らぬ、明るい少女。
拙者のために涙を流してくれた、不思議な存在。
「……君の名は…」
長い、黒髪の娘。大きな赤い瞳の…
それ以外のことは鮮明に思い出せないほど、遠い記憶。
『わたしの名前は―――――……』
懐かしい声が響く
果たせなかった約束を、今でも拙者は覚えている
「…何故、今更こんなことを思い出したのだろうか?」
自分でも何故こんな古い記憶が唐突に出てきたのか…
ああそうだ、ルナ殿と初めて出会った時の不思議な感覚が似ていたからつい…
似ていると言えばあの笑顔…
ルナ殿と稽古を約束した時の…嬉しそうに笑った顔を見て、拙者は一瞬あの娘を思い出した。
…きっと、あの娘とルナ殿はどこか似ているのだ。
拙者がルナ殿だけは平気だった理由も、それなら納得できる。
夢幻の言う、拙者とルナ殿が似ているから…というのももしかしたら理由にあるのかもしれない。
しかし拙者自身、何が似ているのかが明確に分かっていない。
いや、無意識のうちにそれを感じているのかもしれぬが…
…いくら考えても、やはり結果的に平気なものは平気としか言いようがないな。
理由を探そうとすればあれもこれもと思ってしまう。もしかしたら…などというものを出せば切りがない。
根拠のない考えばかりが溢れると、益々混乱してしまうだけだ。
「……似ている…か………」
“約束”した時の笑顔
本当に、よく似ていたな