こいつと俺とでは戦闘力の桁が違いすぎる

 

その証拠に相手の『気』がここまでビリビリと伝わってくる

 

恐ろしいほどの集中力の持ち主だ

 

 

しかし、やるからには俺も負けるわけにはいかない

 

 

 

 

 

太陽の物語

 

 

 

 

 互いに構えているだけでピクリとも動かない。

 麗は多分俺から仕掛けてくるのを待っているのだろう。

 あの構えは居合い抜きの構え…俺が攻撃を仕掛けたら瞬時に刀を抜けるように待機しているのか。

 

 今の俺にはあの刀の動きを捉えることは出来ない…

 しかしそれは『目』の話だ。

 実際に受けたことがないので分からないが、

もしかしたら瞬発的に『体』はあの動きを捕らえることが出来るかもしれない。

 

 …このまま構えているだけでは時間が勿体無い。

 相手の狙い通りとなってしまうがここは俺から仕掛けるしか…!

 

 

 

 「…行くぞ!」

 

 

 

 俺は素早く麗の目の前にまで飛び込んでいった。

 もう俺は麗の射程内範囲の中にいる。いつあの刀が襲い掛かってきてもおかしくはない。

 

 

 

 

 ――――――…

 

 

 

 

 「……素晴らしい瞬発力だ」

 

 

 

 キイィン…!

 

 

 麗の声のすぐ後に金属がぶつかりあう音が闇夜に響き渡った。

 その時になって俺自身も初めて気がついた。

 

 俺のカギ爪は、麗の刀を受け止めていた。

 

 これには自分でもかなり驚いた。

 俺には麗の刀の動きは全く見えなかった。しかし体はちゃんと反応したようだ。

 無意識のうちに俺の体が動き、頭で考えるよりも先に手が出たのだろう。

 

 

 

 「その様子だと拙者の動きは見えていなかったようだな?

  しかし体で反応し、この居合いを止めることが出来るとは…貴殿、素質があるぞ」

 

 

 

 麗は優しく微笑んだ後、俺に止められた刀でそのままカギ爪を振り払った。

 

 

 「居合いが通じないならば、もう一本の刀を抜くしかないな」

 

 

 そう言うと、腰に差してある使われていなかったもう一本の刀を抜いた。

 確か前の任務の時に李苡が言っていたな…麗は二刀流で戦うと……。

 つまり刀を二本手にした今の戦闘スタイルが、麗本来の姿というわけか…。

 

 

 

 「拙者が刀を二本握るということは、相手の実力を認めた証拠だ。

  貴殿の潜在能力には素晴らしいものを感じさせられる、きっとこれから貴殿はもっと強くなるぞ。

  何せ、拙者が刀を二本握った相手というのは貴殿が久しい…」

 

 

 

 そして麗は今までの構えとは違う、本来の二刀流の構えになった。

 俺は麗が二刀流を使っているのを一度も目にしたことがない。

 なので刀を二本握った麗がどのような戦い方をするのかなど、全く予想もつかない。

 

 

 

 

 「では、遠慮なく攻めさせていただく」

 

 

 

 

 そう言った瞬間、少し離れていたはずの麗がいつの間にか俺の目の前に移動していた…!

 

 

 「…くっ!」

 

 

 なんとか瞬間的にガードは出来たが次の攻撃の動きがまるで読めない…!!

 こんなに近くにいるのに麗の『気配』を感じ取ることが出来ない…!

 姿が見えるのに『気配』だけが無いなんて…こんなことが出来るというのか!?

 

 

 「貴殿は、もう少し動体視力の訓練をした方が良い。

  攻撃を受ける時、体の瞬発力に頼りすぎている…それは悪いことではないが

  こうして相手が完全に『気配』のみを消した時、その瞬発力も意味が無くなってしまう。

  折角の素晴らしい瞬発力を活かすには目の力も同時に必要となるだろう」

 

 

 

 言われてみれば確かにそうだ…

 

 俺は強くなるにはただ戦っていればいいとばかり思っていた。

 

 しかしそれでは駄目だ。

 こうしてどこが悪いのか、力を発揮するにはどう改善すればいいのか考えて訓練しなければ

 これ以上、俺は強くなることなど出来ないだろう…。

 

 それでも、一人で訓練しても自分は自分でどこが悪いのかなど気づけるほどの技量がない。

 

 麗のような、自分より強い奴とこれからは訓練をしていかなければ…

 やはり一人だけでがむしゃらに訓練するよりは効率もいいだろう。

 

 

 

 

 「…っ!ハァッ!!」

 

 

 

 とりあえず今は麗との戦闘に集中しなければ…!

 

 先程から戦っていて感じたのだが、何となく麗は右側に攻撃が来ないように動いているみたいだ。

 それに気づいてから、俺はなるべく麗の右側に攻撃を入れるようにしている。

 …とは言っても麗の動きを捉えることが出来ないので攻撃は全く当たらない…。

 

 

 

 「…先程から右側を狙っているようだが、よく気がついたな。

  戦闘というのは相手の動きや癖などをよく観察することも大切だ…しかし……」

 

 

 

 

 麗の赤い瞳が更に鋭くなり、俺の目が追えない速さで刀を振った。

 

 

 

 

 ガッ…!キィィィン ―――――…

 

 

 

 

 次の瞬間には右腕に激しい衝撃が走った…!

 右のカギ爪に攻撃を受けたのだろう、その凄まじい威力が直接攻撃を受けていない腕にまでやってくる。

 

 そしてその腕の衝撃だけで体ごと空中に投げ出され…

 

 

 

 

 「相手の弱点が分かったとしても、攻撃が入らなければ意味がない」

 

 

 

 

 麗も空中まで跳び、闇夜の空に投げ出された俺の上にまで来た。

 

 駄目だ…もう右腕で攻撃は出来ないし、投げ出されたこの体勢では空中で何も出来ない。

 

 

 

 

 

 「本気で戦うと申し上げた以上、多少の怪我は許して下され」

 

 

 

 「…ああ、手加減は無しだと約束した。それくらいの覚悟はある」

 

 

 

 

 

 そして麗は俺の体に最後の攻撃を放った。

 

 凄まじい衝撃と痛みが襲い掛かるがこれは麗が本気で戦ってくれた証拠…

 手加減は無しという約束を守ってくれた麗に、俺は感謝している。

 

 

 

 ダンッ…!!

 

 

 俺の体は背中から地面に強く叩きつけられた。

最初の衝撃には驚いたが、空中でくらった麗の攻撃の方が地面に叩きつけられるよりも痛い…。

 

 口の中も切れてしまったらしく、血が流れている。

 全身も今の一撃で傷だらけだ…まぁこのくらいの怪我なら慣れているからいいのだが、

 一番困るのは服だ…またこんなボロボロにしてしまった……李苡に怒られてしまう。

 

 

 

 「大丈夫か?」

 

 

 

 …最初から勝てはしないと思ってはいたが実際にここまで完敗するとさすがに悔しい。

 もう少し横たわっていたい気はしたが、こんなみっともない姿ではいられないので

 渾身の力を振り絞って立ち上がった。

 

 全身がズキズキと痛むがこれも勝負に負けたのだから仕方がない。

 女だからという理由で無傷で済む戦闘など実際の現場ではありはしないのだからな。

 

 

 

 「このくらい大丈夫だ…」

 

 「寮に戻ったら、夢幻に治療をしてもらうと良い。S隊ならばもう会ったはずだろう?」

 

 「…お前、夢幻と知り合いなのか?」

 

 「ああ、夢幻は拙者の幼馴染だ。今日もS隊についての話を少し聞いたぞ」

 

 

 幼馴染…!?

 この麗とあの夢幻が…意外…というか……だって性格から何から真逆じゃないか、こいつら…。

 

 いや、そんなことよりも今日S隊について夢幻から話を聞いた…ということは

 夢幻が俺に告白して、俺が夢幻のことをフッたとい話を聞いたのか…?

 夢幻はあの後、泣きながらどこかに行ってしまいそれから会っていないので心配だ…大丈夫だろうか…。

 

 

 「あの…あいつ、俺のこと何か言っていたか……?」

 

 「貴殿のことか?…そういえば拙者、まだ貴殿の名を伺っていなかったな…

  手合わせの前に訊くべきであった。して、貴殿はなんと申されるのか?」

 

 「ルナだ…」

 

 「…………………………」

 

 「お、おい…どうしただ…?」

 

 

 

 「……………ルナ…殿…?…貴殿…が……!?」

 

 

 

 

 麗は俺の名を聞くと、その場で動かなくなりサーっと血の気が引くような音と共に

 段々と顔が青ざめていった。

 夢幻といい麗といい、何故こいつらはこんなにも分かりにくい反応をするのだろうか?

 

 

 

 「と……いうことは………貴殿は……女性…なのか………っ!?」

 

 

 「こんな容姿だが、一応女だ」

 

 

 

 すると麗はいきなり地べたに膝をつき、素手で地面に穴を掘ってその場で正座をし、

 全く血の気がない青ざめた表情で俺のことを見た。

 その麗の顔は、先程の手合わせをしていた時の冷静で勇ましい戦士の顔とは全く違う別人のようだ。

 

 

 

 「すまぬっ!!!拙者……貴殿を男だと思っていた………っ!!」

 

 

 

 ああ、もしかして最初に俺と会った時に麗の言っていた勘違いというのはこのことだったのか?

 と、言うことは最初に俺を見た時、麗は俺のことを女だと思ったのだが、

 それを麗は勘違いだと思って俺を男だと思い直した…しかしそれがまた間違いだったということか。

 

 

 

 「せ……拙者……っ…貴殿を…女性とは知らずに………こんな…傷だらけにしてしまい……

  な…なんと…お詫びを申し上げたら良いのか………っ!!!!」

 

 「え…別に…そんな…」

 

 「本当に申し訳ない…っ!!!!!」

 

 

 

 すると麗は、先程の素手で掘った地面の穴の中に顔を突っ込んで土下座をし始めた。

 

 え…ちょっ……俺はどうすればいいんだ…これ…

 

 

 

 「お、おい…!顔を上げろ…!」

 

 「女性の体に傷をつけるとは男として恥ずべき、最悪で最低な行為…っ!!

  しかも親友が恋焦がれている大切な女性だったとは…っ!

拙者…もう貴殿にも夢幻にも会わす顔などない……!!!」

 

 

 「…俺は、麗が本気で勝負してくれたことに感謝している。

  女だからとか、戦いにそういうことって関係ないと思うだ。

  逆に、女だからという理由で手加減などされたら俺は本気で怒ると思う」

 

 

 

 今思えば、俺は女に生まれて損ばかりしているような気がする…。

 

 大体、女の身体というものは男に比べ戦闘には不向きだ。

 男と同じトレーニングを男と同じ量やっても筋肉のつきかたが全然違う。

 体格だって男のようにがっちりとは成長せず、自分の意思とは関係無しに丸みを帯びていく。

 胸だって正直邪魔でしかない。毎朝サラシを巻くのも面倒だし、その他女には色々な事情がある。

 

 それに加えて、男は相手が女だと甘く見て手加減など余計な真似をする。

 俺はそれが一番大嫌いだ。

 

 俺はどんな男よりも強くなりたい…

 しかし女である自分は、強くなれる限界というものがあるのだろう。

 それが悔しい…。どうして、強くなりたいのにこんな性別なんかに邪魔されるのだ…

 

 

 俺が、女に生まれてきた意味などあるのだろうか…?

 

 

 

 

 「俺は望んで女に生まれてきたわけじゃない。

  だから、勝負事においては俺のことを『女だから』なんて目で見るな…。

  俺は…本気で勝負する時は相手にも本気を出してもらいたい…

  戦う時は、男も女も関係なく一人の戦士として…全力でぶつかり合うのが礼儀なのだろう…?」

 

 

 「…ルナ殿……」

 

 

 麗は地面の穴から顔を出した。

 美しく整っている顔に土がついてしまい真っ黒に汚れている。

 

 

 「あの…これだけは勘違いしないでほしい……。

  拙者は、例え最初からルナ殿が女性だということを知っていたとしても、

  勝負に関しては手加減せぬと約束したので、それはきちんと守る。

  …ただ、こんな傷だらけにしてしまってから女性だということが分かったのでつい慌ててしまい…!

  拙者の言動がそのような差別的な風に聞こえてしまい、ルナ殿の心を傷つけてしまったのなら

  深くお詫び申し上げよう…本当にすまない…!!」

 

 

 

 そう言うとまた深々と頭を下げた。

 

 確かに、麗なら俺が女だということを知っていても手加減はしないだろう。

 麗は、そんな性別なんかで相手の強さを決めるなどということはないと思う。

 

 

 

 「しかし!!勝負とは関係なく、嫁入り前の女性の体に傷は残してはいけない!!

  これは一人の男として、責任を取らなければならぬっ!!!」

 

 

 「だから別に気にしてないと…」

 

 

 「勝負に関しては男女関係なく拙者は本気でお相手致す、しかし勝負が終わった後に

  傷だらけのままの女性を放置するなど、男として、いや人としても最悪な行為…!!

  故に、貴殿をこのまま放っておくわけにはいかぬ!!」

 

 

 そして麗は立ち上がった。

 土下座のせいで麗の真っ白な袴や、穴を掘っていた手などが土で真っ黒に汚れてしまった。

 

 

 「少々無礼な行為かもしれぬが…失礼致す…!」

 

 

 すると麗はいきなり、身長180cmもある重い俺の体を横抱きで抱え上げた。

 俺は突然のことに驚き、思わずあっと声を上げそうになった。

 

 

 「お、おい…!何をする…!?」

 

 「すまぬ…嫌だとは思うが少々我慢してくだされ…!

  拙者は回復系の技が使えぬ故、今から夢幻の所へ行って治療をしてもらう…!!」

 

 「俺歩けるから…!こんな怪我大したことないし…!!」

 

 「無理はするな、立っているところを見ていると右足が痛そうだったのでな…」

 

 

 さすが麗、よく観察している…。

 確かに右足が少し痛むので左足に重心をかけていたのだが…そんなところまで気づくとは…。

 

 

 「で…でも…重いだろ…?」

 

 「いいや、全然重くないぞ?大丈夫だから心配しなさるな」

 

 「……すまないな」

 

 

 俺はおとなしく麗に体を預けた。

 普通ならこの俺が他人などに自分を預けるなど危険な行為はしない。

 しかし何故だろう、麗の言葉や表情を見ていると安心する。

 

 

 

 「勝負時以外では、貴殿は女性なのだ。全てを無理して変えようとしてはいけぬ。

  貴殿は、自分が女であることを嫌がっているようだが、それでは駄目なのだ。

  確かに戦闘においてつらいことも多々あることだろう。しかし、それも全部受け止めて

  自分自身を認めてやらねば、強くなる道も閉ざされてしまう」

 

 

 「…女でも、強くなれるかな……?」

 

 「ああ、なれるとも。ルナ殿次第で、男なんかよりも強くなることは出来る。

  女だから強くなれないなんて、そんなことはないのだ」

 

 「……そうか…うん……ありがとう」

 

 

 

 麗は優しく微笑んだ。

 

 もしかしたら、一番『女だから駄目』と決めつけていたのは自分なのかもしれない。

 

 俺は『女』である自分を受け入れることが出来なくて、ずっと拒否し続けていた…

 でも、それではいけないだ。

 麗の言う通り、『女』である自分も含めて自分自身のことを受け入れないと

 心身ともに強くなることなど出来ないのであろう…

 

 

 

 

 

 

 「いつかルナ殿にも、女に生まれてきて良かったと思える日が必ず来る」

 

 

 

 「………女に生まれてきて…良かったと思える日…」

 

 

 

 

 

 

 そうだな。

 

 これからはちゃんと『女』としての自分もよく見つめよう。

 

 

 

 きっと、俺が女に生まれてきたのにも何か意味があるはずなんだ…

 

 

 

 

 

 いつかその意味がわかったらいいな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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