その日の夜

 

俺は夢幻のことを気にしつつも訓練場へと向かっていた

 

 

立ち止まってはいられない

 

強くならなければ

 

 

もう何も…失いたくないから

 

 

 

 

太陽の物語

 

 

 

 

 

 外の気温は低く、なんとなく冬が近づいていることが分かる。

 …そろそろ雪が降り始める季節か。

 

 この季節が近づく度に俺は憂鬱になる。

 特に雪が降っている日…

 雪を見るたびに思い出される『あの日』の記憶。

 俺が何もかもを失って、血塗られた道を歩み始めた…あの雪の日……

 

 まだ、あの悪夢からは解放されない。

 

 

 「…毎年こんなではやっていけないな」

 

 

過去はどんなに望んでも、また、どんなに恐れても二度とやって来ることはない。

だからもう怖がらなくてもいいはずなのに…それでも、まだ呪縛から逃れることが出来ない。

 

 最近、皆といる時はこんなことも考えなくなっていた。

 この悪夢から、少しの間ではあるけど解放される幸せな時間だ。

 しかしこうして一人になるとすぐにまた悪夢は俺に襲い掛かる…。

 

 独りは怖い

 

 いつからか、またそう思えるようになった。

 …これが良いことなのか、悪いことなのかは分からないが。

 

 

 

 「…ん?」

 

 

 そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか訓練場の近くにまで来ていた。

 しかも先客がいるようで、訓練場から人の気配が感じられる。

 

 

 「こんな夜遅くに珍しいな…」

 

 

 なんとなく俺は訓練場に入って行きづらいので様子を窺うことにした。

 気づかれないように気配を消して、誰がいるのかを確認する。

 

 

 …もしかして、あいつはG隊のサムライじゃないか…?

 

 

 いや、もしかしなくてもあいつはあのサムライだ。

 刀の稽古をしているのか?

 丁度いい、少し見学させてもらおうかな。

 

 あれは刀で斬るための物なのだろうか、ワラの束が立っている。

 その束の前でサムライは刀を構えているだけだ。

 …と、次の瞬間

 

 

 ―――――…

 

 

 もうそのワラの束は半分に斬られていた…

 アリス救出任務の時にも見たが、やはりあの居合い抜きというものはすごいな…

 その動きが速すぎてこの俺でさえも動きを捉えることが出来ない。

 

 

 

 

 「…貴殿、ここの場所を使うのか?」

 

 

 

 

 どうやら俺がいることも分かっていたらしい。

 それにしてもこいつはやはり只者ではない、気配を消すのは俺が一番得意とすることなのに

 こんなにも簡単に見抜かれてしまった…。

 

 

 「別にお前がここを使うなら俺は違う所へ行くが」

 

 

 俺は隠れていた草むらから出てきて、サムライの問いに答えた。

 

 

 「おや、確か貴殿はS隊の…」

 

 

 サムライ…麗という男はどうやら覚えていたらしい。

 しかしこうして面と向かって話すのは互いに初めてだ。

 

 麗は俺の顔を見て少し悩んでいた。

 腕を組んで何やらまじまじと俺の顔を見てくる。

 

 

 「…俺の顔に何かついているのか?」

 

 「いや…まさか…?しかし…発作が起こらないということは…やはり……」

 

 「発作?何のことだ?」

 

 「あ…ああ、すまん。少し気にかかることがあったのだが…

拙者の勘違いのようだ、観察してしまったようで申し訳ない」

 

 

 麗はそう言うと深々と頭を下げた。

 その態度から、こいつはものすごく礼儀がある奴だということが窺える。

 しかし麗は俺の何を勘違いしたのだろう…?

 気にはなるがここまで深く謝られたら追求するのも悪い気がするのでやめておこう。

 

 そして麗は頭を上げると、先程の居合い抜きの時には使っていなかったもう一本の刀を拾い上げ、

 腰に差してから俺に少し微笑んだ。

 

 

 

 「ここは貴殿が使うと良い。拙者もそろそろ部屋に戻ろうと思っていたところだしな」

 

 

 

 麗は軽くお辞儀をしてその場を立ち去ろうとした。

 

待てよ…?考えてみればこんなチャンスは滅多にないのでは…?

こいつには戦い方など色々教わりたいことがあるし…

多分この機会を逃したらもうこいつと話すことはないだろう。

 

 

 「お…おい…!ちょっと待ってくれ…!」

 

 「ん?何か用かな?」

 

 

 俺は咄嗟に麗を引き止めた。

 …引き止めたはいいが、なんと頼めばいいんだ…?

 戦い方を教えてくれ、…それでは幅が広すぎて何を教わればいいか分からなくなるな…

 戦い方の中でも俺が知りたいことに絞って…しかしそれも多すぎて絞れないな。

 

 …とりあえず、手合わせでも頼んでみるか。

 実際にこいつと戦ってみれば何を教わりたいかも分かるだろう。

 

 

 「俺と手合わせをしてくれないか…?」

 

 「手合わせとな?」

 

 

 麗はちょっと考えてから頷いた。

 

 

 「承知した。ただし手加減は出来ぬぞ」

 

 「手加減などもとから望んでいない。本気でやらなければ手合わせなどする意味がないからな」

 

 「その通りだ。貴殿は戦う者としての心得を良く分かっている」

 

 

 麗はその整った顔立ちでまた少し微笑んだ。

 そして戦う時の構えをとり、いつでもいいぞと言わんばかりの真っ直ぐな鋭い瞳で待ち構える。

 俺はいつものカギ爪を両手に装備して、少し呼吸を整えた。

 

 

 

 

 

 「いざ、勝負…っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

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