「ずっと前から…貴女のことが………好きでした……!」

 

 

……なんだこいつ?

 

いきなり泣き始めたと思ったら意味不明なことを…

 

 

『ずっと前から』って俺、お前に会ったこと一度もないぞ

 

 

 

 

太陽の物語

 

 

 

 

 

 

 ―――――…

 

 

 

 静まり返る部屋

 

 この状況で俺は一体どうすればいいのだ?

 

 

 「あっ…!突然すみません…!!」

 

 

 そう言うと夢幻は目をゴシゴシとした。

 もとから赤い目がそのせいで更に赤くなった。

 

 

 「ちょっ…ちょっと待てよ!!これはどういうことだぁ!?」

 

 

 ウィルがすかさず言葉を挟む。

 そのおかげでこの妙な空気が消えた、この時ほどウィルに感謝したことはないだろう。

 

 

 「実は…五年前に僕、この方に助けられたんです…それからずっと…好きで///

 

 

 

 五年前?五年前…?五年前……

 

 

 

 

 

 「すまん、覚えてない」

 

 

 

 

 

 

―――――…

 

 

 なんだ?また部屋が静まり返ったぞ?俺何かマズイことでも言ったか?

 

しかし本当に覚えていないのだから仕方がない。

 大体五年前は俺がピークに暴れていた時期だから記憶のほとんどがない。

 覚えてるのはただひたすら戦って戦って戦っていたことくらいだな。

 

 

 

 「もしかして人違いじゃないのか?」

 

 「そんなはずないです!!絶対に貴女でしたっ!!僕エスパータイプなのでその人の気配とか

  覚えていて、人違いなんて今までしたこともありません!!」

 

 「いやしかし俺に覚えがない」

 

 「覚えてませんか!?五年前、僕が悪い人達に絡まれていたところに、貴女は流星のごとくやってきて

  僕の目の前で悪い人達をキラリと光る長いカギ爪で切り裂きまくってズタズタにして

  真っ赤な返り血を浴びてニヤリと素敵にほくそ笑んだ後、また流星のごとく去っていったのです!!」

 

 「あー確かにその戦い方は俺かもしれんな」

 

 「おいちょっと待て!とりあえずそれが本人かどうかは置いといて

今の説明の中のどこに惚れる箇所があったんだっ!?」

 

 「ヒーローみたいでかっこいいじゃないですか!」

 

 「返り血浴びてニヤリとほくそ笑むヒーローがどこにいんだよっ!?」

 

 

 

 言われてみれば五年前の俺はそんな奴だったな。

 あの時期は視界に入るもの全部が敵だったから数え切れないほどの奴を

 ズタズタに切り裂いては走り回っていたので、もしかしたらそんなこともあったかもしれない。

 

 

 

 「もし、それが俺だったとしてもそれはただの偶然だ。

  その頃の俺は人を助けるなんて真似はしなかった。だからお前は俺に助けられたと思っているが

  それはただ単に俺が戦いたかった奴の前にお前が偶然居合わせた、それだけのことだ」

 

 「………」

 

 「これが真実だ、俺はお前を覚えていない」

 

 

 「それでも、いいです」

 

 

 夢幻はまたやわらかく微笑んだ。

 …何故だ、勘違いだと分かってもどうして微笑むことができる?

 

 

 

 

 「それがただの偶然なら、僕はその偶然に感謝します。その偶然のおかげで、僕は自分の道を

  決めることができました。貴女は僕の憧れです、それはいつまでも変わらない真実です」

 

 

 

 

 人を傷つけることしかできない俺が、こんなに優しい微笑み方をする奴の憧れだと…?

 どうして…こんな俺なんかをお前は好きだと言えるんだ…?

 

 俺には理解できない。

 

 

 

 

 「好きです、ずっと前から…あの偶然出会った日から、大好きです」

 

 

 

 

 …この夢幻が言う『好き』というのが李苡の言っていた恋愛感情というものなのか?

 

 

 

 「お前のその『好き』というのは恋愛感情か?」

 

 「えっ…///あ…ハイ!///

 

 「…だったら悪いが、俺にはその恋愛感情というものがまだわからない。

  それにいきなり好きだと言われても正直困る。俺はお前のことをまだ知らない。

  仲間として好きか嫌いかもわからんのに男としてお前を好きかなんて聞かれてもわからん」

 

 「………」

 

 

 

 

 「…ということは……えっと…夢幻は……フラれたってことか…?」

 

 

 

 

 再び静まり返った部屋にウィルの声がぽつりと響く。

 すると動きが止まった夢幻の目からまた涙がボロボロとこぼれだした。

 

 しかしこれが今の正直な気持ちだ。

 まだ理解できない感情をぶつけられても理解できるわけがない。

 ここで嘘をつくほうが余計に夢幻を傷つけることになる…

 だったら本当のことを言った方がずっといいと俺は俺なりに考えたのだが…

 

 

 

 

 「そ…そうですよね…っ!いきなり知らない人に好きだと言われても困りますよね…っ!」

 

 「…すまん」

 

 「いえ…っ!僕の方こそ突然ごめんなさい…!

あ…そうだ……まだ貴女のお名前…聞いてませんでした…!」

 

 「…ルナという、これからはS隊の仲間として宜しく頼む」

 

 「ルナさん…ですね!はい…!仲間として……よろしくお願いします…ね…!!」

 

 「……なぁ、頼むから泣き止んでくれないか?」

 

 「す…すみません…っ!なんか…止まらないんです……あ、でも気にしないでください…っ

  僕は…大丈夫ですから…!!……ごめんなさい…見苦しい…ですよね……失礼します………っ!!」

 

 

 

 

 夢幻はそのまま部屋を走って出ていってしまった…

 

 

 俺はしばらく考えた。

 もしかしたらもっと夢幻を傷つけずに済む方法もあったのかもしれない。

 俺が考えている以上に、俺の言葉で夢幻は傷ついてしまったかもしれない…

 

 

 

 「……………」

 

 「大丈夫よ、アンタは何も悪くない。むしろ偉いわ、ちゃんと本当のこと言えたじゃない」

 

 「…もっと、うまく断れる方法もあったかもしれない……なのに俺は…」

 

 「断ることに上手いも下手も関係ないわよ。…いずれにせよ、お互いが傷つく結果は同じなんだから。

  でも、自分の本当の気持ちをそのまま伝えることが大切なのよ。

  夢幻も今は辛いかもしれない、でもアイツはちゃんとアンタの気持ちを理解してくれてる」

 

 「でも俺は…あいつの言う『好き』という感情を理解してやることができなかった…」

 

 「それはしょうがないわよ、アンタ自体がまだ誰かを『好き』になったことがないんだもの。

  理解できないのが当たり前、わからないのに理解しようとするほうが逆にお互い傷つくことになる」

 

 

 

 李苡は背伸びをして、自分よりも身長の高い大きな俺の体を抱きしめた。

 そして、昔よく母さんがやってくれたように俺の頭を優しくポンポンと叩いた。

 

 …昔の俺は泣き虫でよく泣いていた。

 それをいつも母さんがこうやってあやしてくれていたことをふと思い出した。

 

 

 

 

 

 「ルナは、人を傷つけてしまった痛みをちゃんとわかってる。それは同じ傷を共有した証拠。

  理解できなくても、ちゃんとわかってあげられてる。だから自分を責めないで」

 

 

 

 

 

 

 

 そうか、これが人を傷つけてしまった痛みなのか

 

 

 

 

 

 

 

 

すごく 痛い ――…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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