アリス誘拐事件から数週間が経った

 

仮入隊期間が終わるのも後数日…

 

 

もうすぐ俺も正式な隊員だ

 

 

 

 

 

太陽の物語

 

 

 

 「…………」

 

 「どうしたのよ?元気ないわね」

 

 「李苡…」

 

 「アンタまだ気にしてるの?この前の誘拐事件のこと…

  あれはアンタが弱いんじゃなくて敵の数が多かっただけよ」

 

 「…それでも、A隊の奴らはたった六人で戦っていた」

 

 「あ〜…A隊はしょうがないわよ、アイツらの強さはホント桁外れだし…

  あんな奴らと戦闘能力なんか比べたら誰でも落ち込むを通り越して開き直るわよ」

 

 

 確かにA隊の戦闘能力は桁外れだ。

 俺なんか到底足元にも及ばない、そんなこと分かっている。

 

 しかし、それでは駄目なのだ。

 結局あの時にA隊が来なかったら俺らは全滅、そして兄さんも助けられなかった。

 

 あのような状況にいつまたなるかも分からない。

 その時に、俺は兄さんを守りきれるだろうか、助け出せるだろうか…

 …今のままの俺ではそれはとても困難なことだろう……。

 

 

 「俺はもっと強くなりたい…兄さんを、皆をちゃんと守れるくらい…強く…」

 

 「…ルナ、どうしてアンタはいつもそう『守る側』でいるのよ」

 

 

 李苡は俺の背中をポンっと軽く叩いた。

 

 

 

 「たまには『守られる側』になっても悪いことは起きないわよ」

 

 

 

 そう言って李苡はいつもの強気な笑みを浮かべる。

 

 

 「それにホラ、アンタ一応女でしょ?好きな男ができた時に

アンタが守ってばっかじゃ男の方が可哀相よ。

今からアンタも守られる練習とかしておいたほうがいいんじゃないの?」

 

 「好きな男……兄さんのことか?」

 

 「そうじゃなくて!!恋愛感情よっ!れ・ん・あ・いっ!!」

 

 「恋愛感情…?どんな感情なんだ、それは?」

 

 「…アンタどんだけ世間知らずというか無関心というか…」

 

 「俺の兄さんに対する『好き』という感情は違うのか?」

 

 「それは家族に対する愛情だからまた別の『好き』なのよ。

  恋愛感情っていうのは…なんて言ったらいいのかしら…こう、家族以外の異性に

  強く心を惹かれるっていうか…興味が湧くっていうか……」

 

 「あ、俺…この前のアリス事件の時にA隊と来てた奴…確かG隊の麗という奴に

  すごく関心を持ったぞ、興味もある。戦い方について色々聞きたいと思っているのだが

  これがその恋愛感情という感情なのか?」

 

 「それもなんか少し違う気が…大体アンタのその興味・関心は麗自体にあるわけじゃなくて

  戦い方とか強さの秘訣に興味があるんでしょ?」

 

 「そうだな、別に麗という男に対しては特に何も思っていない、強いってくらいか」

 

 「恋愛ってのはそれ以外にも色々な感情が湧くわけよ。

  ずっと一緒に居たいとか、この人がいなくなったらもう生きていけないとか…これは大袈裟か」

 

 「…やはり当てはまるのは兄さんくらいしか……」

 

 「……誰かコイツに恋愛感情を教えてくれる男はいないのかしら」

 

 

 何故こんな話に発展したのかは忘れたが、とりあえずその感情はまだ俺には理解できない。

 大体俺がそんな他人に依存するとはまず思えないが…

 

 

 

 ダダダダダダッ!ズテッ!!ゴッ!!!

 

 

 

 ん?何か廊下が騒がしいな…

 まるで誰かが走っていたら思いっきり転び更に壁に顔面を衝突させたような音がした。

 

 

 

 ドン!ドン!!ドン!ドン!!ドングギ!! 『うぎゃあぁぁっ!!』

 

 

 

 次は俺らの部屋のドアを思いっきり叩いていたら途中で手首を捻って叫んでいる男の声がした。

 その声からだいぶ手首が痛そうだと思った。

 

 

 「女子寮は男子禁制だってのになんなのよ、あの馬鹿は…」

 

 

 そういえばグロリア軍の女子寮は男は入ってきてはいけないことになっているはず。

 (しかし男子寮は女が入ってもいいことになっている。なので俺はよく兄さんの部屋に行っている)

 

 叫んだ声は…多分ウィルのものであろう。

 

 

 

 「何の騒ぎよ…バカ恐竜」

 

 

 李苡がドアを開けると、そこにはやはり顔面衝突をしたのか、

ヒリヒリしそうなほど真っ赤な顔のウィルが先程痛めた手首を振りながら立っていた。

転んだ時に足首も捻ったらしく片足の状態だ。

 

 

 

 

 

 「大ニュースだぜっ!!S隊に回復役の奴が他の隊から移動してくるらしいぞっ!!!」

 

 

 

 

 

 それを聞くと李苡の動きはピタリと止まった。

 李苡は動きが止まってから数秒、何かを考えいきなりウィルに平手打ちを放った。

 

 

 「ぐぶらっ!?」

 

 ウィルは意味不明な言葉を発して床に倒れた。

 

 

 「いってぇー!!何すんだよいきなり…っ!?」

 

 「夢じゃない…」

 

 「…は?」

 

 「夢じゃないのねっ!!やっとS隊にも回復役が…っ!!!」

 

 「ちょっ…もしかして今の平手打ちはそれを確かめるために…?」

 

 「大丈夫!!この手ごたえは現実の証拠よっ!!」

 

 「普通自分の顔叩いて痛いかどうか確かめるんじゃねぇのかっ!?」

 

 「これでこれからの任務の作戦を立てるのも楽になるわっ!」

 

 「え、何、無視ですか?いきなり殴ったあげくに無視ですか?」

 

 「いつ来るの!?ていうかそいつ攻撃もできるかしら!?遠距離系!?近距離系!?

  タイプは!?ノーマルっ!?それともエスパーとかっ!?いやむしろ草タイプ希望っっ!!」

 

 「グッ!?な、なんで殴るんだよっ!?ぐはっ!ちょっ…うおっ!?これイジメっ!!?」

 

 

 回復役が来ると聞いてから李苡はとても嬉しそうにウィルを殴り続けていた。

 今までにないくらいの勢いで瞳を輝かせ期待に胸を躍らせている。

 一方ウィルは李苡の無意識の攻撃により瀕死状態になりかけているが…まぁいいか。

 

 それにしても回復役か…

 確かにこのポジションの奴が加われば任務もだいぶ楽になりそうだ。

 

 

 

 「と…とりあえず…司令室へ……来いって…」

 

 

 ウィルはそれを言い残して気を失ってしまった。

 

 

 「よしっ!!早速行くわよ、ルナ!!」

 

 「そうだな」

 

 

 

 李苡は瀕死状態のウィルを引きずりながら嬉しそうに階段を下りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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