俺はなんて無力なのか
これでは…子供の頃の自分と全く同じではないか…
強く…もっと強く…
大切なものを失わないように
強く…ならなければ……
月と太陽の物語
「ルナ!こっちこっち!!」
「李苡…!」
その後、李苡やアリス、そして翼の火傷も完治したウィルと合流した。
「李苡、アリス!!お前ら大丈夫だったか!?何かされなかったか!?」
「危ないところだったわよ…なんとか危機一髪で助かったみたいだけど…」
「私も…何とかギリギリで助かりました…!ホントに良かったです…っ!!」
「そうか…なら良かったが…」
しかし、これから俺たちに出来るのはただA隊が戦っているのを傍観することだけだ…
それが悔しくて…もっと、もっと強くならなければ…と思わされた。
正直、自分は結構強いとは思っていた。
今まで誰にも負けなかったし、兄さんを一人で守り続けていた。
もっと戦える方だとは思っていた…だが、こうしてこの状況にいるとそれは思い込みで、
まだまだ俺は未熟な奴なのだと思い知らされる…
「もぉ!月詠ちゃん遅いわよ〜!!」
「水霧さん、お化粧崩れてますよ?」
「あらヤダ!!どうしてそんなこと言うのよ〜!気にしてたのにぃ!!」
A隊の奴らが見える…
月詠と今話しているのは何やらすごく派手な服装をしている…男…?
「ねぇねぇ、いっつも思ってたんだけどさ、なんで水霧は男なのにお化粧してるの?」
「もぉ〜!聖ちゃん、いつも言ってるでしょ!私の心はいつでも乙女なのよ☆」
そこに加わってきたのはまだ子供ではないか…!
あんな子供までもがA隊なのか…?
「やぁコンニチハ」
「!?」
いきなり俺の目の前に現れた全身紫の何やら男か女かすらも分からない
髪の毛で顔の半分が隠れていてこれ視界は見えてるのかと思うような長い前髪の奴が声をかけてきた。
「MeはA隊に所属しているチェンジという者デス。You、戦闘能力が中々高そうデスね。
なのでお姿をお借りしたいと思いマス」
「…?」
いきなり意味の分からないことを言ったかと思えば、次の瞬間にはそのチェンジの姿はなく、
なんと…俺が俺の目の前に現れたのだ…!
「っ!?」
「少しこの姿を借りるぞ…では…」
声や性格までそのまんま俺になったチェンジは戦闘に加わっていった。
しかも俺の姿で俺と同じ戦闘スタイルなのに技の威力が本物の俺よりも
“チェンジが化けた俺”の方が遥かに強かった…
「あいつは誰にでも変身できるんだよ、声も顔も性格も戦い方も全く同じにな。
しかも本人よりもチェンジのコピーの方が強いってんだから悔しいよなぁ」
「………」
思わずウィルの言葉に頷いてしまった。
確かに、自分より強い自分を目の前で見せられるなんて悔しい。
「久しぶりだね、ウィル君」
「あっ!院長先生!!久しぶり!」
「相変わらず元気が良くていいね。安心したよ。
あ、こんにちはS隊の皆さん。僕はA隊のカルムという者です。
神父もやっていてね、孤児院の院長もやってるんだ」
「俺を助けてくれて育ててくれたってのがこの院長なんだぞ!」
「うちのウィル君がいつもお世話になってます」
カルムと名乗った男は、優しそうな微笑みをしながらお辞儀をした。
…よく言えばのんびりしているとでも言うのだろうか?動きがかなり鈍そうだがこいつもA隊なのか…
「それでは、休憩は終わりにするよ。皆が大変そうだからね」
そう言うと、あの顔にはかなり似合わないタバコを一本くわえて火をつけた。
すると白い煙が立ち昇る。
「先生…まだタバコ吸ってんのかよ!止めろって言ったじゃんか〜!」
「任務中だけだよ。これがないと任務に集中できないんだ。
大丈夫、子供たちの前では絶対に吸わないから」
「体に悪いだろ〜!俺は先生を心配して言ってるんだぞ!!」
「心配、ありがとうございます。でも任務中だけは勘弁してほしいな」
「…しょうがないなぁ、任務中だけだぞ!タバコ吸っていいのは!!」
「ありがとう、では行ってくるね」
タバコをくわえ、紺色の服には目立つ白い煙を立ち昇らせながらカルムは戦闘に加わった。
こんな変わり者ばかりのA隊だが、実力は本物だ…
技の威力、戦い方が桁外れに違う…
「そぉ〜れ!“オーロラビーム”!!」
「いっくよー!“竜巻”〜!!」
「僕も頑張らなくちゃね、“瓦割り”!」
「私は回復専門なのですが…こんなに敵がいてはしょうがないですね…“水の波動”!」
「お前の技…使わせてもらうぞ…“シャドークロー”!」
一人一人が技を繰り出すたびに何十…いや、何百人単位で敵は吹っ飛んでいく。
この世界には俺が知らない強い奴がこんなにいるんだな…
それを思うと、今まで自分がどれだけ狭い世界で生きていたのかと考えさせられる。
そんなことを思っている間に敵はすごい早さで一掃されていった。
「…!!」
戦闘中の敵の群の中で、とても俺の関心を引いた奴がいた
「拙者は無駄な殺生は好まぬ…命とは尊きものだ……貴殿らも、もっと命を大事にして欲しい。
しかし…向かって来るというのならば、貴殿らを斬らねばならぬ…」
刀を二本、腰に差している和服の男。
敵に周りを囲まれているが、全然動じず落ち着いている。
「うるせぇ!!この侍風情がっ!!!」
「殺すのが嫌ならテメェが死ねやっ!!」
そして周りを囲っていた数え切れないほどの敵の大群が一斉にその男一人に襲い掛かった
しかしここからだ、俺が関心を引かれた理由は…
「残念だ……」
―――――――……
バタバタバタッ!!!!
「…桜のように美しく散りたいのならば、もっと良い行いをするべきであったな…」
一体何が起こったというのだろう…!?
あの男は何もしていないのに襲い掛かった奴らは次々と倒されていく…
刀を抜くのかと思ったら、抜かずにただ構えをしているだけだ…
「李苡…あいつは何者だ…っ!?」
「ああ、アイツはG隊の麗っていうのよ。A隊じゃないのに特別任務に抜擢されてるほどの実力を持つ
刀の名手よ。確か二刀流で戦うって話を聞いたような…」
「さっきの技は何だ…!?あいつ…何もしていないのに敵がいきなり斬られていて…!」
「居合い抜きって言うらしいわよ。目に見えない速さで刀を抜いて斬ってるらしいけど…
私たちには速すぎて全然見えないわね」
「瞬間で…刀を抜いて斬るところまでやっているのか…!?」
「信じられないわよね、まぁA隊くらいの実力を持つ奴なら見えてるんだろうけど…」
本当に世界とは広いものだ。
あんな技まで使える奴がいるなんて…この俺が全く動きを捉えることができないほどの速度で…
「な…なんですの…っ!?この化け物みたいな奴らは…っ!!」
アーボックの女もたじろいでいる。
それはそうだ、あんなに強い奴らがいきなり現れて、あんなにいた敵の大群を
あっという間に片付けてしまったのだからな…
「あ〜ら?化け物は酷いんじゃなくて?少しお化粧が崩れただけじゃな〜い」
「あはは♪水霧オバケだぁ〜♪」
「さて、貴女は指名手配中のクレド軍の紫苑さんですね?残念ながらもう逃げられませんよ」
「罪を償いなさい。本当に反省し、懺悔をすれば神は貴女を救ってくれるでしょう…」
「You、もうあの大群もイマセン。悪足掻きはやめたほうがいいデスよ?」
「…くっ!!」
『えー?何、折角来てやったのにもう終わりなワケ?』
静まり返った部屋に突如響く子供の声
その声に俺らは辺りを見渡すが誰もいない
紫苑と呼ばれたアーボックの女は何故かニヤリと不気味な笑みを再び浮かべた
ウィーン…――― …カタカタ――
ヴォン…―― ビビ…ビ――― ビ ―――…
電子音と共に何やら暗号のようなものが空間に出現し、その暗号は形を成し、立体になっていく…
「やっぱ現実世界はしんどいなー、てかここまで来たのに何も無いとか、んなワケないよなぁ?」
そこに現れたのは先程の声の主…ヘルメットを被った子供であった。
「アスタリスク様…!!」
紫苑はその子供の前にひざまずき、深々と頭を下げた。
「ん?なんかこの部屋散らかってんな、こいつら死んでんの?」
その子供は地べたに倒れる敵の群を見て言った。
敵の群は別に死んでいるわけではなく、気を失っている奴らばかりなのだが…
「ま、どっちでもいーや。邪魔だから俺が掃除してやるよ」
そして子供はニヤリと楽しそうに笑い、その地べたに倒れる大群に手を向けた。
「“電磁砲”」
カッ―――――…!!
技名を唱えた瞬間、目も開けていられないほどの光が発せられた…!
次に目を開けた時にはあんなにいた大群が一人残らず姿形無くなってしまったのだ
「大丈夫ですか?皆さん」
前にはミラーコートを発動させた月詠がいた。
俺らはこの月詠の技のおかげで助かったようだ…
「兄さん…!!」
そしてカルムは兄さんを抱きかかえていた。
あの子供が技を発動する前の光の中、紫苑の一瞬の隙を見て助け出したのか…!?
「ルナ…ちゃん…」
「兄さん!大丈夫ですか!?」
「うん…大丈夫だよ……皆は?アリスちゃんは…見つかった…?」
「はい!皆無事です!アリスも無事救出しました…!」
兄さんはアリスの姿を確認してゆっくりと微笑んでから、また俺の方を向いた。
「そう…良かった…。…ごめんね、また…ボク…捕まっちゃったよ…」
「いいえ…!兄さんは悪くありません…悪いのは…守れなかった俺の……」
「違うでしょ!!悪いのはアンタでもサニーでもなくて、クレド軍の奴よ!!」
「そうだそうだ!あいつらが悪いんだっ!!」
俺の言葉を遮り、李苡とウィルがそう言ってくれた。
…どうやら、自分を責めるのが俺の悪い癖らしいな……
「おいおい、色違いのニューラってあいつのこと?てか捕まえてないじゃん」
「す…すみません……!!油断した隙に…っ!!」
「しょうがねーなー、んじゃあ俺が取り戻してやるよ」
そしてあの強力な技を放った子供が今度は俺らに手を向けてきた。
直接あんな技を放たれたら月詠のミラーコートでも耐え切れないだろう…
「…これは無理ですね」
「アリスさんとS隊の皆さんは助け出したし、任務は完了だよ」
「Meはあの方には変身できマセン。それはかなりあの方のレベルが高いからデス」
「A隊でもあの子供には勝てないわ…こういう時は……」
「逃げるが勝ちぃ♪」
「と言うわけで麗君、お願いします」
「承知した。…“テレポート”」
麗という男が技名を唱えると、俺達は空間の渦に飲み込まれ…そして……――
――――――……
「…逃げられちまった」
「すみません…わたくしのミスで…!」
「ホントだよ全く…っ!!…お?そのアーボ…左目に傷があっけど、見えないのか?」
「はい…人間によって……」
「ふーん、じゃあお前もそのアーボとお揃いにしてやろうか」
「ア…アスタリスク様…っ!?な、何を…っ!!」
「俺を呼び出しておいて何も面白いこと無かったじゃんよ。その代償はきっちり払ってもらわなきゃな」
「すみませんでしたっ…!ごめんなさ…い…いやあああぁぁぁああっっっ!!!!!」
――――――……
――――――――――………
―――――――――――――――――……………