優しくされると 胸が苦しくなる
一層のこと、俺を憎んで恨んで傷つけてくれれば
俺はもっと楽でいられたのに
月と太陽の物語
「僕は一足速く軍の方に戻ってますね」
役目は終わりましたから、と夢幻は小さく呟いて微笑んだ。
その微笑みはいつものように優しく、温かかった。
「あ、その前に…“願い事”」
夢幻は俺の前で祈るように手を合わせ、回復系の技を発動させた。
すると淡い光が降り注ぎ、先程の綺羅との戦闘で負った傷を癒してくれた。
夢幻も雅との戦闘で相当な傷を負っているのに…
「僕が貴女にしてあげられるのはこれくらいです」
技の発動が終わると同時に夢幻はふらついたが、なんとか自分の足で体を支えた。
どうやら体力の方が限界らしい…無理もない。雅との戦闘で俺以上のダメージを負い
大きな技も発動させた…もともと夢幻は戦闘向きではないから余計に辛いだろう…。
それなのに お前は優しく微笑みながら俺の傷を癒す
どうしてお前はこんな俺に優しくしてくれる…?
せめてお前が俺を憎んで、傷つけてくれた方が楽だったかもしれない。
しかしお前は俺に微笑み、傷を癒す。
ならば俺は どうやってお前の傷を癒せばいい?
深く傷つけてしまったお前の心を 癒せないまま ずっと 俺は
「情けない…もう限界みたいです…。あとは帰りのテレポート分しか力が…」
「夢幻、今日はここに泊まり傷の手当てをしていけ。明日、帰る時には拙者が…」
「いいえ、今日帰ります。心配している師匠達にこのことを早く伝えたいので」
夢幻が小さく微笑むと、早速帰るようのテレポートの準備をしだした。
「夢幻…っ!」
俺は何を言ったらいいのかも分からずに、夢幻の名を呼んだ。
「俺…っ」
「ルナさん」
夢幻は俺がこの先何を言おうとしたのか分かっているようで
その先を言わせまいと人差し指を口の前で立てて、言葉を遮った。
「僕は貴女のそんな顔が見たくてここに連れてきたのではありません」
そして夢幻は光が揺れる瞳で微笑み、俺の手をとって祈るように両手で包んだ。
「笑って」
祈りのように優しく、想いのように真っ直ぐな声で言った。
「それが僕の幸せだから」
何もできない俺が、夢幻にしてやれることはこのくらい。
俺は夢幻に心の底から微笑んだ。何故か、涙が一粒だけ頬を伝い落ちていった。
「ありがとう…」
俺の口からは謝罪の言葉ではなく、感謝の言葉が自然と出てきた。
言葉なんかでは伝えきれない程の感謝の気持ちが…この手から伝わればいい。
夢幻は目を閉じて微笑みながら小さく頷いた。
ゆっくりと離れていく温かい手と、優しい瞳。
そのまま小さくテレポートの技を唱え、夢幻は眩い光に包まれていった。
「―――――…お幸せに」
温かく響く祝福の言葉と共に、夢幻の姿は見えなくなった。
俺と麗はその光が消えるまでずっと見送っていた…