右目の傷は拙者の誇り
この身に深く刻まれた友情
そして 夢幻への 償い
桜の夢
「麗様っ!!そのお怪我は…っ!?」
「なんでもない。ただ……その…稽古中に…あー……木を切り倒してしまい…
えっと……ああそうそう、それの下敷きになっただけだ」
どうやら麗は嘘をつくのがだいぶ下手なようで、すごくバレバレな嘘をついて
仕え人を誤魔化そうとしている。
麗はうまく嘘がつけたと自信満々な表情だが誰もこんな嘘に騙されるはずがなかった。
「と…とにかく治療を…っ!!」
その嘘のことは置いといて、麗はすぐさま治療室へと連れて行かれた。
夢幻はそれを見送って、一人ある場所に向かって行った…。
「骨は折れていません。ただ出血が酷かったのと…右目の傷が深刻でして…
右目の視力は無くなったわけではありません、しかし今の段階ではほぼ見えていない状態ですね…」
「この視力は戻るのか?」
「はい、完全な失明ではないので回復の見込みはあります。
毎日リハビリを続ければなんとか見えるようにはなるかと…しかし今までのような
完全な視力にまで戻るのは…多分難しいです」
「光が見えるのならそれで良い。拙者には左目もあるしな」
「…それと、お顔の傷の方なのですが……右目側に大きく傷痕が残ります。
これは傷が深かったので痕を消すのは不可能で…」
麗は右目の大きな傷痕を手で確認し、静かに微笑んだ。
「この傷はこのままで良いのだ」
治療後、専属医にとりあえず今日一日は部屋で安静にするようにと言われたので
麗は寝る時以外には滅多に来ない自分の部屋で静かに刀の手入れをしていた。
「…そういえばさっきから夢幻の姿が見えないな」
少し探しに行こうと思って立ち上がった瞬間、麗の部屋の戸を叩く音がした。
「麗、夢幻だけど、入ってもいいかな…?」
「夢幻か、構わぬぞ」
そう言って部屋に入ってきた夢幻の右目には白い眼帯がされていた。
「夢幻…?その右目はどうしたのだ?」
「…これは、君を守れなかった僕に対する罰だよ」
「…罰……まさか、父上が…っ!?」
「少し違うかな?これは僕が自ら望んだことなんだ」
「…!?」
「さっき、ご当主様に本当のことを全部話してきた。
麗が森で盗賊に襲われたことも、それが全部僕のせいだってことも」
「あれは夢幻のせいではない…!拙者の力不足故に…っ!!」
「違う、全部僕のせいだよ。僕があんなところへ行かなければ麗が大怪我することもなかった。
このことをご当主様に話したらね、お前は罰として分家に帰れって言われたんだ。
…でも、そんな軽い罰じゃ僕の犯した罪は消えない…麗に申し訳ないって思った」
「それで…お前……っ」
「麗の右目はほぼ見えなくなったって聞いたよ。なのに僕の右目は見えてるなんて変じゃないか。
だから僕は自分の意思で右目を取ってもらうように頼んだんだ」
「何故そこまで…っ!!拙者の右目の視力はいずれ回復するもの…!
それなのに右目を除去してしまうなんて…そんなことしたらもう光は見えぬのだぞっ!?」
「大丈夫、僕には左目もあるしね。ご当主様も止めてくれたけど、僕の罪はこれほど大きいんだ。
それとご当主様にお願いしたんだ。右目を取ることで僕は罪を償うから、僕をまだここに…
この本家に置かせてくださいって、あと、悪いのは全部僕だから麗のことも叱らないでくださいって…
そしたらご当主様も、それほどの覚悟があるなら良いだろうって言ってくれたよ」
「夢幻……」
「右目だってちゃんとお医者さんが手術してくれたし、義眼も入れてくれたから不自然ではないよ。
それに、折角麗と友達になれたのに分家に帰るなんて絶対嫌だしね」
そう言うと、初めて出会った時に麗がしたように、夢幻は麗の手をとって微笑んだ。
その夢幻の手はとても温かく、そして優しかった。
「これからは、本当の“友達”として一緒にたくさんの思い出を作って、
そしてたくさん笑おう、僕達は今ここに存在してるのだから…!」
今、微笑む夢幻の顔はあの出会った当初の凍てついた顔ではなく
やっと本当の『夢幻』が、ずっと封印していた『子供』に戻って心から笑っている。
それはとても幸せそうで、眩しい笑顔だった。
―――― 誰か この存在を 認めてよ ――――
自分達は同じだった
小さな存在は消えそうになりながら
苦しんで 支配から 逃げようとする
“子供”でいることもできない
それでも自分達は無力な“子供”でしかいられない
存在は誰にも認められない
同じだった
本家も分家も関係ない
ただひとつの存在として 助けを求めていた
そして その存在同士は 出会った
同じ存在と出会って、子供達は“自分”と出会った
大人に支配される時は続く
だけど、今ここに存在していることだけは
どうか 忘れないで