信じない
信じられない
どうしてお前は笑うんだ
偽りの友情と知っていたのに
どうして僕なんかに笑いかけるんだ
わからない
どうして僕は逃げるんだ…?
桜の夢
何故だか分からないけど僕の体は走っていた。
前も見ないで走っていた。
信じられない、信じたくない事実から必死で逃げていた
「夢幻っ!!止まれ!その森は…っ!」
あいつは何かを言っているが 今の僕には聞こえていない
逃げろ
逃げろ 逃げろ
何から逃げているのか…?
逃げろ
逃げろ 逃げろ
ひたすら冷たい方向へ
「はぁ……はぁ…っ」
もうあいつの声も聞こえない
どこかで見失ったのか
僕はようやく立ち止まる
それにしても、だいぶ森の中に来てしまったようだ。
大きな木で周りは埋め尽くされ、深い茂みが地面を覆う。
空さえも遮られ、木漏れ日のわずかな光しか射してこない。
まだ正午だというのに薄暗く、そのせいか空気も冷たく感じられる。
まるで今までの僕の心の中のような世界
初めての優しさから
初めての温もりから
逃げて 逃げて 辿り着いたのは
この場所だった
あれほど憎んでいたあの世界に逃げ込んだ
求めていたものを目の前にしながら、受け入れる勇気がなくて
結局また、この暗い世界に戻ってきた
僕はまた一人ぼっち
「…でも、自業自得…だよね」
あいつから逃げていたのも 自分の弱さだ
もし…あいつが追いかけて、僕を捉まえてくれたら
僕は全てを受け入れることが出来るかもしれない
そんな 他力本願な考えで逃げた
あいつは僕を見失った
僕を見つけることができなかった
僕はまた一人ぼっち
冷たい世界に閉じこもるしかない
「おい…そこのガキ……」
「!?」
な…何…?
僕が驚いて振り返ってみると、そこには筋肉質な大人の男の人達が何人も
僕の身長よりも大きな剣を構えて立っていた。
「こんなところに一人でいるなんて物騒だぜ?」
「パパとママはどうしたんでちゅかぁ〜?」
そう言うと柄の悪い男達は大きな声で馬鹿にするように笑った。
「そういえばよ〜、この新しく仕入れた剣の切れ味まだ試してないんだよなぁ」
「おお丁度いい、このガキで試してみたらどうだ?」
「確かに金目のものも持ってなさそうだし、このくらい役に立ってもらわなくちゃな」
男は僕にその大きな剣を向けてきた…
「ウラアァァッ!!!」
「“サイコキネシス”!!」
大きく剣を振り上げた瞬間の隙をついてそのデカイ腹にサイコキネシスを放った。
僕だって全く戦えないわけじゃない…
分家の子供は本家を守るために戦闘も幼い頃から教えられているんだ…!
「うおおっ!?」
その男は剣を振り下ろす前に僕の技によって数メートル先へと飛ばされ、倒れた。
「このクソガキっ!!」
それを見た他の男達が一斉に僕を襲ってきた…!
いくらなんでもこんなに多くの大人相手では僕にも限界というものがある…
改めて自分の無力さを痛感する
子供とは どうしてこんなに無力 なのか
いつでも、どんな時でも 子供は大人に支配される
この冷たく暗い世界で
僕は最期まで 一人ぼっち
――――――――――……
覚悟を決めて目を瞑った
そろそろ衝撃が来るはずだ
「夢幻」
死の衝撃の代わりに もう聞こえるはずのないあいつ声がした
そんなはずないと思いつつ 僕は何かに期待してゆっくりと目を開いた
「夢幻、大丈夫か」
そこには 顔の右側に大きな傷を負い、大量の血を流しながら刀を構える
あいつが微笑んでいた
「れ…い………」
「…やっと、呼び捨てで呼んでくれたな」
見失わないでくれたのか…?
僕を…見つけてくれたのか……?
そんな傷を負っても
こんな僕のために微笑んでくれるのか………?
「クッ…!な…なんだこのガキ…っ!?」
「大の大人を三人もふっ飛ばしやがった…っ!!」
「拙者、二刀流の麗と申す。お主らはこの辺りに最近出没するという盗賊だな?」
「何だこいつ偉そうに…!!」
「おい…二刀流の麗って……あのでっけぇ家の跡取り息子っつー噂のガキじゃねぇか…?」
「だとしたらこいつを人質にすりゃあ…」
「一生遊んで暮らせるような金が手に入る……」
すると男達は急に目の色を変えてきた…
しかし狙われている当の本人は顔色ひとつ変えずに血の滴る勇ましい姿のままだった。
「望みとあらばお相手致そう」
「所詮ただのガキだ!大人に敵うはずがねぇ!!」
「怯むな!しかも奴はすでに右目に傷を負ってやがる!!」
次々に襲い掛かる男達。
その中で子供が一人戦っている
見事な動きで敵の攻撃を受け流し、両手に握られた二本の刀で相手を斬っていく…
僕はただ それを傍観することしか出来なかった
―――――――――……
「…まだ、戦闘を続けるか?」
「こ…こいつ……半端なく強い…っ!!」
「何なんだ…っ!ガキのくせに…っ!!!」
「子供は大人に勝てないと思っていたか?
子供だから、支配できると思っていたか…?」
「くっ!に、逃げろっ!!!」
まさか…信じられない……
子供が大人に勝ってしまったのだ…
あの圧倒的に不利な状況の中
こいつは一人で戦った
僕みたいに途中で諦めて目を瞑ることもせず
ただ前を見て真っ直ぐと戦い続けた
迷いも何も感じられなかった
「怪我はないか?夢幻」
そう言う彼の体中は傷だらけで、至る所から真っ赤な血が流れていた
腕から流れている血が、刀を握る手のひらまでも赤く染めていた
服も所々切れてしまっていて、激しい死闘だったということを表している
そんな状態でも いつもと変わらない笑顔で僕を照らした
「ありがとう……麗…」
涙は 冷たくて 苦しいものだと 思っていた
今 こんなにも 温かい涙を流せるのは
僕がここに 存在している 証
そして僕の存在を見つけてくれた 君がいるから
もう 逃げないよ
ありがとう
僕の“友達” ―… 麗