手には冷たい刀を
心には孤独を
誰にも愛されない
温もりさえも
わからない
桜の夢
「父上!拙者、また新しい技を使えるようになりました!!」
広い、広い、桜の咲き誇る庭で、まだ幼い少年が歓喜の声を上げた。
歳はまだ六歳位であろう、純粋に輝いている瞳と無垢な笑顔。
顔立ちは整っていて、まるで少女と見間違うほどの魅力である。
肩に少し触れるくらいの長さの髪。
緑色で、毛先はきちんと切り揃えられている。
手には刀を二本握り、息を切らしながら父親のもとへと駆け寄っていった。
「そうか、ならば次の稽古に励め」
それだけを言い残すと、父親らしき男は去っていった。
その言葉には息子を褒めてやる気持ちも、かと言って怒りのような気持ちもなく、
本当に何も思っていない、冷酷な響きをしていた。
一人残された息子は、そんな父の態度には慣れていた。
「拙者がもっと頑張れば、父上もきっと喜んでくれるはず…」
少年はそう信じ続け、ただ一人冷たい刀を握って稽古に励んでいた。
少年の名は麗
いつかこの大きな本家を継ぐ立場にある者だった。
ある一族の本家で、刀の名手と名高い家柄だ。
麗には母親はいなかった。
母親は元々病弱だったらしく、麗を産んで間もなく帰らぬ人となった。
唯一の肉親である父親は、息子である麗に『愛情』というものを持っていなかった。
父親にとって麗は『跡継ぎ』でしかなかった。
麗は全部知っていた
自分が愛されていないことも、自分のせいで母親が死んでしまったことも
泣いて 泣いて 泣いた
何度も 何度も 謝った
『ごめんなさい…ごめんなさい……生まれてきて…ごめんなさい…』
誰にも 届かないと知っていても
ただ ひたすら謝った
「拙者がもっと頑張れば……拙者が…もっと…もっと……」
少年は、舞い散る桜の下に一人
冷たい刀を握って そう信じて生き続けた
そうでないと、自分の存在の意味が無くなってしまうから
「麗様、ご当主様がお呼びで御座います」
いつもと変わりのない日常の中で、いきなり変化が訪れた。
「父上が…?」
「中でお待ちしておられます」
本家にいる仕え人の男が麗にそう告げてきた。
麗は父親に呼び出されることなどなかったのですごく驚いた様子だった。
戸惑いながらも麗は父親の部屋へと向かった
「失礼します」
普段絶対に入ることのない父親の部屋に緊張と恐れを抱きつつ入っていった。
「初めまして、麗様」
そこには父親と、見知らぬ子供が座っていた
歳は麗と同じくらいの少年で、麗と同じくキルリアの人型であった。
本当に女のような顔立ちの、美しい少年だ。
麗と同じ種族である証の緑色の髪を左右の高めの場所で結んでいた。
「分家の夢幻だ」
父親がそう言うと夢幻と呼ばれた少年は立ち上がってお辞儀をした。
「僕は、貴方とお友達になるためにやって来ました」
麗はただ立ち尽くして、混乱のあまりに言葉を発することが出来なかった。
麗は生まれたときからこの本家が支配する土地から出ることを許されなかった。
だから同い年の子供など見たこともないし、接したこともない。
周りにいるのはいつも大人ばかりだった。
そんな麗の前に、友達になるために来たという同い年の子供がいる
「ほ…本当に、拙者と友達になってくれるのか…!?」
勇気を振り絞ってその言葉を発した。
すると夢幻は口元だけで静かに笑い、こう返した。
「そうですよ、そのために僕がいるのですから…」
麗は久々に子供らしい感情というものが湧き上がってきて、
本当に嬉しそうな無邪気な笑顔で、大きな瞳を輝かせて夢幻に駆け寄り手をとった。
「拙者…同じ年頃の子供に会ったことがないし、遊んだこともない…!!
だから…今ここに貴殿がいることが…本当に嬉しい…っ!!」
そんな無邪気な笑顔とは対照的に、冷静な微笑しかしない夢幻はどこか暗い雰囲気が漂っていた。
しかし、まだ幼い麗はそんなことには全然気づかず、本当に心の底から喜んだ。
――――― これが、二人の出会いだった ―――――