カギ爪を装備し、戦闘の体勢をとる
辺りは静まり返り
空からは淡い桃色の花びらが舞い落ちる
月と太陽の物語
「ちょっとストップ…」
その沈黙を打ち破ったのは俺でも相手でもなく、緑髪の男だった。
「綺羅!邪魔をするなっ!!」
「おれがその人と戦う…」
意外すぎる発言にまた別の沈黙が流れた。
先程まで敵意剥き出しで怒っていた長髪の男すらも目を見開いて固まってしまった。
「ど、どういう意味だ!?お前の言うことはいつも訳が分からんっ!!」
「今の雅じゃその人に勝てないよ…開始10秒で多分返り討ち…」
「それは我が弱いと言いたいのかっ!?この麗様の側近である我がっ!!」
「違う…別に雅が弱いわけじゃない…」
緑髪の男が俺のことを見る。
…先程も思ったがこいつの洞察力はとても鋭い。
「今の雅は感情的になってる…きっと戦っても感情に任せて暴走するだけ…
…そんな状態で勝てるほど、この人は甘くない…」
「なっ…!!」
長髪の男…雅と呼ばれている護衛兵は何か言いたそうだが言葉を返せずにいる。
「雅は…この人の顔を見ながら冷静に戦える…?それができないなら戦わない方がいい…
戦闘時は常に冷静であること、感情的になった方の負け…っていつも麗さんが言ってたでしょ…?」
「うっ…そ、それは…っ!」
雅はとことん麗に弱いらしい。
麗の教えを聞かされると途端におとなしくなった。
「…おいっ!黒猫女っ!!貴様との勝負は後回しだ!!
今は麗様のご命令を確実にお守りするという大切な役目があるからなっ!!!」
「雅…それただの負けセリフにしか聞こえない…
そんなこと言ってないでむーさんを見張っておいた方がいいんじゃないの…?」
その言葉に雅は今気がついたように慌てて夢幻の姿を探した。
「あ…バレましたか…」
こっそりと中に進入しようとしていた夢幻がバレてしまった…
「夢幻殿!いつの間にそんな所に…っ!?
いくら夢幻殿でもこの中に進入しようとするならば容赦はせんっ!!」
「そうですか…なるべくなら話し合いで解決したかったのですが…」
戦いを好まない夢幻が自分から戦闘の体勢に入った。
雅も相手が俺じゃないからか、冷静に戦いの構えをした。
その構えは俺と対峙した時とは全く別のようにきちんとしている…あれが本来の構えらしい…
夢幻は大丈夫だろうか…そんな心配をしつつ、俺の前には綺羅と呼ばれる男が対峙する。
「はじめまして…おれは綺羅…、あんたの名前は…?」
「俺はルナだ」
「ルナ…じゃあこれからルナりんって呼ぶね…」
「…お前、不思議な奴だな」
「うん、よく言われる…」
綺羅は傍らに置いてあった剣を二つ、眠そうに構えた。
どうやら戦闘スタイルは麗と同じ二刀流らしい…
それにしてもあの重そうな剣を片手で持てるくらいだ、力は相当あるのだろう。
「それじゃ…いくよ…」
その瞬間、綺羅の目つきが鋭くなった…!
「っ!!」
驚く間もなく、綺羅の姿は視界から消え…
「後ろ」
俺は訳が分からないまま振り下ろされた剣をカギ爪で受け止めた。
そう、俺のすぐ後ろに現れた剣を…
「油断大敵、危なかったね…」
な…なんて素早い奴なんだ…!?
普段の喋り方や動きからは全く想像がつかないほどのスピードだ…!
「次は忠告なしで攻撃するから…気をつけて…」
その言葉の終わりには既に綺羅の姿は消えていた。
俺も素早さには自信がある方だ…次は、逃さない…!
「右かっ!!」
「…っ!?」
麗との稽古の成果が出ているのか、相手の動きが見える…!
俺は攻撃を受け止めるだけではなく綺羅の剣をカギ爪で封じ、一瞬の隙を狙い蹴りを入れた。
綺羅は攻撃を受けても取り乱さず、冷静に俺のカギ爪を剣で弾き
素早く後ろに下がって俺との間を取った。
「ルナりん…すごいね、二回目でもうおれのこと見えてる…
それに…攻撃力も思ってた以上にあってびっくりした…」
「驚いているのはこっちだ…お前ほどの素早い奴なんて滅多にいない…
その冷静さも見習いたいものだ、結構な力で蹴ったのだが…よく対処できたな」
「あと二、三発本気の攻撃くらったら負けちゃいそう…
うーん…できれば技とか使わないで戦いたいんだけど…しょうがないかなぁ…」
すると綺羅は体ごと剣を大きく反らした。
「“かまいたち”!」
そしてそのまま勢いよく剣を振り下ろした。
二つの剣からは風が巻き起こり、俺へと襲いかかる。
「くっ…!!」
風は刃物のように鋭く、ガードをしていても全く意味が無かった。
腕や足、そして顔の一部に切傷が刻まれていく…!
風が治まった頃には衣類も既に所々が切れてしまい、体も傷だらけになってしまった。
頬から流れる一筋の血を汚れた手で拭い、俺も綺羅に攻撃を仕掛けた。
「“シャドークロー”!!」
しかしその攻撃は避けられ、綺羅は再び姿を消す。
「“切り裂く”!」
「………っ」
真上に現れた綺羅の剣を瞬時に避け、俺は綺羅の左側に出た。
「“メタルクロー”!!」
「…っ!!」
綺羅が持っていた左側の剣を大きく弾き、綺羅の手から放れた剣は地面へと突き刺さった。
これには少し動揺を見せた綺羅だがすぐに落ち着きを取り戻し、
残った右の剣を横に大きく振り、俺との間を取りそのまま技を繰り出す。
「“エアスラッシュ”!」
その攻撃を避けきれず、体勢を崩してしまった俺にすぐさま綺羅の剣が振り下ろされた…!
キイィィィン ――――…
俺は膝をつくような態勢で何とか綺羅の剣を受け止めた。
互いの武器がぶつかり合った金属音が響き渡る…
「ハアアァァァッ!!!」
「っ!?う…わぁ…っ!!」
カギ爪の間で剣を挟み思い切り横に弾く。
剣は空高く舞い上がり、綺羅は無防備な状態になった。
「ラアァァッ!!」
「がっ…!!」
一発目を入れたところと同じ場所に二度目の蹴りを入れる。
綺羅は体ごと壁に強く打ちつけられた。口からは一筋の血が流れている。
すぐに俺は綺羅の動きを封じ、カギ爪を喉に突きつけた。
「……おれの、負けです」
負けを認める言葉を聞き、俺は突きつけていたカギ爪を静かに離した。