あれから 一年

 

 

信じられない程、自分は変わっていた

 

しかしそれが怖かった

 

 

 

感情なんて 要らなかったのに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おぅリクヤ!今日はどないや〜?」

 

 「うっさいわボケ!そないデカイ声出さんでも聞こえとるさかい!」

 

 

 

 コイツが来てから一年が経つ。

 やたらワイに構うですっかりコイツの変な喋り方が移っても

最初はうっといやっちゃなと思う無視してたんやけど

コイツが言葉ちゅうもんを毎日教えてくるで暇や付きあって

やっとったらこのザマや…

 

 せやけど言葉ちゅうもんを覚えてからはよう喋るようになったと自分でも思う。

 …まぁ、コイツ以外とは喋らへんけどな。

 

 

 

 「ハハハ、相変わらず口がえらいガキやなぁ」

 

 「じゃかあしい!半助いたろか!?」

 

 「わいはそない暴力的な言葉教えてへんで」

 

 「教えてもらわんでも自分で学習できるアホ!」

 

 

 

 毎日のように繰り返されるしょうもない会話。

 せやけど…何故か嫌だとは思わんようになっていた。

 

 

 …自分でも分かってきた心境の変化。

 感情というものが徐々に芽生えてきてまったんや

 

 

 

 一年前 名前を貰ったあの日から

 

 

 

 

 「…おい、おっさん」

 

 「おっさんやのうてシンヤいうとるやろが、でなんや?」

 

 

 「ワイの名前…リクヤってなんなん?」

 

 

 

 

 それを聞くと、アイツは満面の笑みでこう答えた。

 

 

 

 

 

 「お前の名前は、地面の陸にわいの名前を一文字足したんや!

  せやから“リクヤ”。覚えるのも簡単でええや?」

 

 

 

 

 アイツが笑顔でないこと言うさかい、思わず目ぇそむけてもう

 

 

 

 

 「アホらし、聞くんやなかった」

 

 

 

 

 何だかまた変な感覚や。名前を貰ったあの時と同じ…

 

 嫌だとか、怒りだとか…そんなんやない、そんなんちゃう感情。

 

 

 

 嬉しい のか?

 

 

 

 

 ハハ…そんなわけあるかい。きっとこれは何かの間違いや。

 それ以前に、こうして感情があることも全て間違いのはずなんや。

 

 

 最近は忘れとったが、ワイは人工生物兵器。

 それはどう足掻いても変えられへん事実。

 兵器に名前付けて言葉を教えるなんて、ホンマにいかれとる話や。

 

 …せやけど、アイツはワイを兵器として見てへん

 

 名前付けたり、妙な言葉教えたり…不思議なやっちゃな

 他の連中はワイを未だに番号で呼び、兵器として監視している。

 

 ワイは作り出されてから一度もこの筒状装置の外へ出たことがあらへん。

 このことから、奴らがワイを兵器として恐れとるちゅうことが分かる。

 出れるもんならとっくにこない所出て研究所ごと破壊したるわ。

 

 

 

 

 「おぅ、どないしたリクヤ?黙り込んでからに…まさか、名前の由来に

  あまりにも感動して言葉も出ぇへんのか!ハハハ、そうかそうかぁ!!」

 

 

 「アホゥ!!んなわけあるかい!ホンマ頭わいてんちゃうか?」

 

 

 

 もしここから出られたら、くだらん研究に夢中の科学者どもを全員殺して

 この研究所も破壊し尽くしたる。

 

 …コイツだけは、特別に見逃してやってもええけど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…なぁ、リクヤ。お前こっから出たいんか?」

 

 

 

 

 

 

 頭中読まれたような突然の言葉に驚いた。

 

 

 

 「当たり前や。いつまでもこない所に閉じ込められてたまるかい」

 

 

 「そうやな、わいもそう思う。…わいは、一度でええからこの手で

  お前の頭でも撫でてやりたいと思っとるねん。よう、頑張ったなって…」

 

 

 

 そう言ってアイツは今迄で見たこともないような笑い方をした。

 そんなアイツの顔を見とると、何故だかワイは胸の辺りが締め付けられる感覚に襲われた。

 

 

 

 「な…何そないなきもこと言うてんねん!ホンマに頭いかれとるんとちゃう…っ?」

 

 

 「…そやな、わいは頭いかれとるんかもしれん」

 

 

 

 

 力無く、アイツは笑った。

 

 

 

 

 「……頼むから…ないせえへんでくれ…!」

 

 

 

 

 今、自分が何を言うたのか理解できへんかった

 ただ…この胸の苦しさをなくそうとして…なんでか、こない言葉が咄嗟に出てきた。

 

 

 

 

 

 「ありがとう、リクヤ」

 

 

 

 

 

 アイツは、笑いながらワイに手を伸ばした。

 しかしその手は透明な壁に邪魔をされ、ワイに届くことはない。

 

 無意識に伸ばしたワイの手も アイツに届くことはない

 

 

 

 目の前にいるのに、こんな壁一枚ですごく遠くに思えた。

 

 

 

 ああ、せやからアイツはあんな顔で笑ったんや

 ワイは今、ないしてんのやろ。アイツと同じ顔やろうか。

 

 

 

 

 

 「もう時間や…また、明日来るさかい」

 

 

 

 

 

 壁の向こうでアイツは静かに笑って、いつもと同じ言葉を残し部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワイは 透明の壁がどんなに冷たいもんかを  初めて知った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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